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前日同様、七月九日も快晴だった。
しかし幸いにも気温はいくらか下がって、三十度ジャストしかない。
三十度『しか』、って──。
初瀬川 理緒
は太陽に手をかざす。
遠い昔、といってもせいぜい小学一年生の頃なら、摂氏三十度でじゅうぶん真夏日だった。ところが昨今の暑すぎる地球では、三十度なんてヘタをすれば四月でも確認できる。夏ともなれば三十六度くらい普通、この寝子島ですら四十度に迫る日は何回も訪れる。しかも狂ったような暑さは、九月後半までつづくのだ。
これで「気候変動は嘘だ」とか言う人がいるんだから、たいしたものだと思う。理緒だってもとは、そんなに政治や社会のことに詳しいわけじゃなかった。むしろ遠ざかるようにしていた。でも自分が当事者になって、ネットで好き放題言われる側になってから、世の中いろんな『事実』がなかったことにされるんだな、というのを肌で知った。だからいまは、見て見ぬ振りはできない。
やっぱやばいよね、このままじゃ。
なんて、柄にもなく真面目なことを考えていたのも束の間、
「今日は三十度なんだって」
佐和崎 紗月
の声で現実に引き戻された。
「まあ、これは『涼しい』って言っていいわけだ」
「この時期にしては……だけどね」
「でも、水着撮影会にはもってこいの日じゃない?」
「言えてる」
ふたりは控え室がわりに停められたバスから順番に降りた。車内はカーテンで仕切られていて、着替えやメイク直しができるようになっている。エアコンが効いているぶん、外に出た瞬間の熱気がよけいに重く感じられた。
理緒は、薄いシフォン素材のカバーアップを水着の上に羽織っていた。歩くたびに裾がふわりと揺れて、中の水着がちらちらと見える。あえて見せるための一枚だ。髪は緩く巻いてあって、赤い花飾りをひとつ挿している。誰がどう見ても『今日の主役』という顔をしていた。
対する紗月は、白いゆったりとしたTシャツを水着の上から羽織っている。基本無地だが、胸元にだけワンポイントでアメコミヒーローのロゴが入っていた。理緒が選んだものだ。「紗月はこのくらいのほうが可愛いよ」と言われて着ることになった。本人としては、もう少しボディラインの隠れるパーカーのほうが落ち着くのだけれど。
「あ、出てきた出てきた」
声をかけてきたのは、別の事務所だが先輩グラドル、
峰岸 逢瀬
(みねぎし・ありせ)だった。小麦色の肌に明るい髪色がよく映える。すでに撮影用の水着姿で、慣れた様子で日傘を差している。
水着は派手なアニマル柄のビキニで、腰には小さなチェーンベルトを巻いている。耳には大ぶりのフープピアス、手首にはじゃらじゃらとブレスレットを重ねづけ。日に焼けた肌にぴったりの、まさにギャルといった出で立ちだった。厚底サンダルがよく似合う。
「逢瀬さん、おはようございます」
さっと紗月が頭を下げる。律儀なところはあいかわらずだ。
「どもーっす」
理緒は昔からの知人なので、ほがらかに手を振った。
「おはよ~。ふたりとも今日もアツアツじゃん」
「気温の話? それとも別の話っすか?」
理緒がからかうように返すと、逢瀬は「両方ってゆーかー」と笑った。
「つかさ、理緒ちゃんと紗月ちゃんが出るとマジで女性のお客さん増えるんだよね~。嬉しー! あーしの単独よか絶対女の子率高いし」
「ンなことないでしょ」
「あるって。受付の子が言ってた、今日のチケット女性比率えぐいって」
理緒はちらりと紗月を見る。紗月は少し困ったような、でも嬉しそうな顔をしていた。カミングアウトしてからそれなりに経つ。最初は怖かった。実際、激烈に叩く人もいたようだし、事務所には殺害予告すら届いたという。でもいまこうして『ふたりだから』会いに来てくれる人がいるというのは悪い気はしない。むしろ、誇らしい。
「あたしたちのこと、応援してくれてるってことでしょ。ありがたい話です!」
「理緒、いつもポジティブ」
「紗月がネガティブすぎんのよ」
軽口を叩き合いながら、ふたりは集合場所へと向かう。
砂浜には、すでにテントやパネルが組まれていた。スタッフが慌ただしく機材を運び、受付の列にはちらほらと人が並びはじめている。今日が撮影会デビューらしき新人の姿も見える。緊張しきった顔で、スタッフに何度も同じことを聞いているようだった。
「あの子、新人?」
なじみのスタッフに理緒が訊く。
「ツインテールの子?
みう
って名前じゃなかったっけ。今日デビューって聞いた」
理緒は目を細めた。あの感じ、覚えがある。自分もそうだった。デビューしたばかりの頃は足が震えて、何を話していいかもわからなくて。
なんだか、放っておけない気がした。
「ちょっと様子見てくる」
理緒は逢瀬と紗月にそう告げて、足早に新人のもとへ向かった。
「みうちゃん、だよね?」
声をかけると、ツインテールの少女がびくっと肩を震わせた。高校生だと聞いていたが、こうして間近で見るとよけいに幼く見える。化粧でだいぶ大人びて見せてはいるものの、目元には隠しきれない緊張がにじんでいた。
「は、はい! あの、初瀬川さん……ですよね」
「理緒でいいよ。今日、撮影会デビューなんだって?」
「は、はい……。緊張しすぎて、昨日全然眠れなくて……」
「わかるわかる。あたしもそうだった」
理緒は笑いかけた。
「コツとか色々あるけど、いまは一個だけ覚えといて。お客さんは、敵じゃない。みうちゃんのこと見たくて、わざわざ会いに来てくれた人たちだから」
「敵じゃない……ですか?」
「そう。緊張してカチコチになるより、ちょっとくらいぎこちなくても、笑顔のほうが絶対伝わる。完璧じゃなくていいから」
みうは理緒の言葉を、ひとつひとつ噛みしめるように聞いていた。
「あと、ポーズに迷ったら、とりあえず手を頬に当てとけば様になるから。困ったときの保険ね」
ふふっと笑うと、みうの表情がようやくすこしほぐれた。
「理緒さん、優しいですね。なんかネットで見るイメージと違いました」
「ネットでどんなイメージだったわけ」
「えっと、クールな感じ、というか」
「それ絶対、紗月のイメージと混ざってるって」
理緒が笑うと、みうもつられて笑った。さっきまでの強張った表情が嘘みたいに消えている。
「よし、いける顔になった。がんばってね」
「は、はい! ありがとうございます……!」
深々と頭を下げるみうを見送って、理緒は集合場所に戻った。
紗月がじっと、こちらを見ていた。
「なに紗月、にやにやして」
「ううん。理緒ちゃん、ああいうのうまいなって思って」
「ああいうのって?」
「新人の子の緊張、ほぐすの」
「あたしも通った道だしね」
紗月はそれ以上何も言わなかった。ただ、長く理緒のほうを見ていた。理緒はそれに気づかないまま、スタッフに呼ばれて準備へと向かった。
ピーカンの空の下、撮影会の第一部がはじまろうとしていた。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月01日
参加申し込みの期限
2026年06月08日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月08日 11時00分
参加キャラクター一覧
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