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まだ正午には時間があるが、
「ランチはどうする?」
と言う珪に、あえて回答せずに綾花は告げた。
「七月八日、本日ですが」
「うん?」
やはり外はまぶしい。目を細めて綾花は言う。
「今日は生パスタの日らしいですよ」
「生パスタ?」
「七を『な』と呼んで八は『ぱ』です。連続させて生パスタ」
珪は怪訝な顔をした。
「だったら『菜っ葉』の日でも、沖縄県『那覇』市の日でもいいのでは? 大阪の『難波』でも」
意外なほど食いつきがいい。綾花は困ったように言った。
「たぶんそのあたりもあると思うんです。ただ、私が見つけたのが生パスタの日だっただけのことで」
スマートフォンの画面を手早く出して見せる。ブラウザ、日本パスタ協会うんぬんのページだ。別に日本に生パスタがはじめて輸入された日でも、生パスタが好きだった聖人にちなんだ日でもないらしい。
珪は興味を示すのも早かったが、冷めるのも早かった。たちどころに納得した様子になる。
「なら生パスタが食べられる店にでも行くかい?」
そうじゃなくて──と綾花が言う前に、珪のなかで何かスイッチが入ったらしい。「パスタと言えば」と彼は話し出す。
「ルイス・キャロルは偏食が酷かったけどパスタだけは好きだったそうだね。ヘミングウェイの小説にも、スパゲティをおいしそうに食べる場面があったはずだよ。そうそう、アメリカには空飛ぶスパゲッティモンスターというのがいてね……」
なんだか妙な方向に脱線しそうになったので、慌てて綾花は口を挟んだ。
「いえ、できれば私、手作りしたいと思ってます。生パスタのお料理を」
「綾花さんの部屋で? それとも僕の部屋かな?」
「珪さんの部屋がいいです。キッチンも広いし」
「そうか。なんだか悪いね」
「はい。旬のなすとパプリカを使おうかな。スーパー、寄って帰りましょう」
「うん」
珪は短く答えた。
スーパーは、ちょっとしたにぎわいを見せていた。野菜売り場で、綾花はなすとパプリカを選ぶ。
「珪さん、こっちのなす、どっちがいいと思いますか?」
「どっちでも」
「えー、ちゃんと見てくださいよ」
綾花が二本を並べて見せると、珪は近づいて、それぞれを見比べる。
「こっちかな。ヘタのところが、しっかりしてるから」
「詳しいですね」
「前にどこかで読んだだけだよ」
珪が選んだほうのなすは確かに張りがよく、瑞々しい色をしていた。
珪の部屋はいつもきちんと片付いている。本以外の物が少なくて、生活感が薄い。最初に来たときは驚いたものだがもう慣れた。むしろこの静かな空間が好きだった。誰にも侵されていない、珪だけの場所。それを少しずつ、自分の場所にもしていく過程が綾花には嬉しい。
キッチンを借りて、綾花は調理をはじめた。
なすを乱切りにして、パプリカを細切りにする。にんにくをみじん切りにして、オリーブオイルでじっくり炒める。香りが立ちはじめると、部屋いっぱいに広がっていく。
「いい匂いだね」
リビングから珪の声がした。
「もうすぐできますよ」
生パスタを茹でる。乾麺とはちがう、もちもちっとした重さが鍋の中で揺れる。湯気が顔にかかって、軽く汗ばむ。綾花はこの時間が好きだった。誰かのために何かを作る時間だから。
炒めた野菜にパスタを絡め、塩とオリーブオイル、最後に黒胡椒を多めに振る。仕上げにバジルの葉を一枚。
できあがったパスタを、ふたりで食べる。
「おいしい」
珪が言った。
短い感想だったが、綾花にはそれで十分だった。
「夏野菜って、火を通すと甘くなりますよね」
「そうだね」
「パプリカ、特に甘いです」
「僕もそう思う」
珪は淡々とフォークを動かしている。味の感想を多く語るタイプではない。それでも、皿の上の料理は綺麗に減っていく。
食べ終えると、珪は皿を重ねてキッチンに運んだ。
「ありがとうございます」
「いいよ。座ってて」
水音が聞こえる。珪が皿を洗っているのだ。
綾花はソファに座って、その背中を見ていた。
なんでもない、平凡な午後。
でも、これが私の日常になってると思うと、不思議な気持ちになる。
ついこの間まで、珪さんは『先生』でした。
それが今は、こうして同じ部屋で、同じ食事をして、同じ時間を過ごしている。
すごいことです。
水を止めて、珪が戻ってくる。
「ちょっと休憩したら珈琲でも淹れよう」
「はい」
珪はソファの隣に座った。
窓の外は、まだ強い日差しがつづいている。
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シナリオデータ
担当ゲームマスター
桂木京介
シナリオタイプ(らっポ)
ゴールドシナリオ(200)
グループ参加
2人まで
シナリオジャンル
オールジャンル
定員
5人
参加キャラクター数
5人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2026年06月01日
参加申し込みの期限
2026年06月08日 11時00分
アクション投稿の期限
2026年06月08日 11時00分
参加キャラクター一覧
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