～にゃんこ西暦２２２年～ねこネコ王国祭！！｜リアクション

～にゃんこ西暦２２２年～ねこネコ王国祭！！

　　【王さまと不思議な歌姫】

　王さまは意気揚々と大通りを歩いていました。
　王さまの被り物の白い毛はふかふかでもさもさですが、手入れはきちんとされていて、この大通りを歩いていてもさほど違和感はありません。
　そして、気分も高まり、大通りの広場に差しかかろうというところで、王さまは不思議な歌声を耳にしました。

　今日はめでたい誕生日♪
　国王にゃんこの誕生日♪

　皆で楽しくお祝いしましょう♪
　近くのにゃんこが集まって♪
　遠くのにゃんこも集まって♪
　にゃんこじゃなかったにゃんこも集まって♪
　皆で輪になりお祝いしましょう♪

　上の方から聞こえてきた歌声。
　おそらくは屋根の上からでしょう。
　さり気無く聞こえてきた歌声は、一瞬周りの屋台をも、しぃんとさせましたが、次の瞬間にはいっそうの盛り上がりと共に皆が飛び跳ね同じ歌を歌い始めました。
　王さまだけは気分は祭に高揚させながらも、歌の主を探そうとあちこちを見やりました。王さまはこれが「特別な魔法」の歌だと気付いたからです。

　特別な魔法──正式名称、ろっこん。

【発動条件】感情を強く深く込め、歌う事に集中する
【能力】歌を聴いた人の心に歌に込められた感情を湧き上がらせる

　歌主を探して、屋根の上に一つの影を見つけます。
　王さまは四本足で身軽な足取りで街の家の柵を登り、軽く屋根の上まで登り上がりました。
　そこには、楽しそうに一人で歌を歌う一匹の猫がおりました。
　「この楽しそうな歌の主はおぬしかニャ？」
　「……え？　キャアっ！」
　猫の来客──白浜渚は不意に現れた王さまに驚きを隠せず、四本足なのに、屋根の段差に足を取られて、そのまま屋根から落ちそうになりました。
　「危ニャい！！」
　王さまはこんどは二本足で渚が踏み外した足を手に取り何とかバランスを取り戻します。
　そして、屋根の上まで引っ張り戻して、小さく一息つきました。
　「大丈夫かニャ？」
　「ええ、大丈夫で……あ！」
　渚は人見知りで、慌てて逃げようときょろきょろしたところで、また足を滑らせてぺちっと転んでしまいます。
　「大丈夫ニャ。何もしないニャ」
　言いながら、先ほどの歌のお陰で大盛り上がりしている、大通りの屋根の反対側へ回りました。
　渚も歌ったのが自分であるのが見つかっては恥ずかしいので、王さまについてそちらに回ります。

　「不思議な歌ニャ。もっと聞いていたくなる歌ニャ。
　もっとあちこちで歌って皆を盛り上げてやってほしいニャ」
　「……！　はい、ありがとうございます……！」
　「それにしても──史上に残りそうな大変な美猫にゃ。異界からの来客と見受けられるにゃが、もしよかったら残りの余生を我輩の元で過ごしてみないかニャ？」
　「え……？」
　その意味に気付くまでに少し時間は掛かりましたが、気付いた瞬間、言葉を無くして必死にお断りの文言を探し始めました。
　その様子を楽しそうに見つめて、猫の王さまは言いました。
　「冗談ニャ。我輩も一人だから歳をくったニャ～。
　行くニャ。娘さんは綺麗だから、猫さらいに気をつけるニャ」
　王さまが誤魔化すと、渚は心から安心したように安堵のため息をつきました。
　
　「あら……？」
　渚が声をあげ、気がつくと手を伸ばしたお陰で黄色の毛並みの手が少しだけ見えてしまっています。
　王さまはそれに気がついて、慌てて白い毛を引っ張って隠しました。
　「秘密ニャ。これは秘密ニャ」
　少しだけ慌てた名乗りもしない王さま猫でしたが、何かやんごとなき猫なのだろうと思った渚は、

　「はい、約束致しますね」
　普段の人の姿ではまず見られない笑顔でそう告げたのでした。