天地夏冬雪と墨｜リアクション

天地夏冬雪と墨

【星に願いを】

「そんでさ、そんでさ！　私のスライムちゃんがすっごい張り切っちゃってさ、どっか～ん！　ってタックルしたらさ、敵をやっつけたのはいいけどイキオイあまって、マオメイさんまで吹っ飛ばしちゃってさ」
「あはは……あの時はびっくりしたよ。すっごい飛んでたよね」
「ほんとほんと、もうばっひゅ～んて感じでさ～！」
　好きなゲームでいっしょに遊んでいる時。そんなゲームについてああでもないこうでもない、雑談に花を咲かせている時。佐藤英二のたあいのない楽しみ、喜びはつまるところ、野々ののこと体験をともにすることに尽きました。
「今、メインストーリーを進めてるところなんだ～。『LIQUID』、もっと早くやっときゃよかったなー！」
「うん。でも今、ののこさんといっしょに遊べて、僕は楽しいよ」
「え～？　嬉しいこと言ってくれるじゃ～ん英二ちゃん、うりうり～。このこの～」
「あっ、ちょ、ののこさ、くすぐった……あはははは！」
　おどけた彼女とじゃれあうのも、いつものやりとり。飾らず自然体で、気取ることも見栄を張ることもなく、おたがい素をさらけだして気楽なおしゃべり。ののこといると、肩ひじ張ったり気疲れするということがまったくありません。彼女はいつだって楽しくて、あっけらかんとして明るくて、周囲までもきらきらと輝かせてくれる存在です。
　そんな彼女が、英二は好きなのです。
「あっ英二くん、見えた見えた！　うわーすっごい人だねえ！」
「ほんとだ、人混みすごいね……」
「うーん、盛り上がってきた！」
　人いきれにちょっぴり腰が引ける英二。対してののこは、人波を見るとテンションが上がってくるようです。彼女らしいな、と英二は思います。
「さ、いこいこ！　面白グッズあるかなー、小腹が空いてきたからなにか食べたいよね、あっ！！　あれなにかな英二くん、なんだろあれー！？」
　学生の時分から、ちっとも変わりません。英二は苦笑いしつつ、手を引っ張られておっとっと。よろめきながらも彼女のペースについてゆくのは、いつでもわくわく、飽きないのでした。

　そんなわけで、『寝子島クリスマスマーケット』へやってきたふたり。お目当ては、先ほどののこも口にしておりましたけれど、『なんか面白クリスマスグッズ！』だそうでして。
「おー、ちっちゃいサンタにおっきいサンタに、トナカイもあるねえ。可愛いなあ。見てるだけで楽しいなー」
「目移りしちゃうよね。あっほら、あれなんてどう？　頭にかぶるクリスマスツリーだって」
「うわ、電飾がぴかぴかぐるぐるしちゃうの！？　ほ、ほしいかも……あっ、あっちのはクリスマスメガネセットだって。スノーマン型にクリスマスリース型、ビスケットのお家の形もあるよー」
「みんなでかけたら楽しそうだね」
「着ぐるみもある！　英二くんはジンジャーブレッドマンとローストチキンだったらどっちがいい？」
「そ、その二択なの……？」
　あっちを見てもクリスマス、こっちを見てもクリスマス。ツリーは瞬き、サンタコスのおじさんは踊り、かかるＢＧＭもクリスマスソングです。お客も、むかえるスタッフも、リードにつながれたペットのわんこも、みんなみんな混然一体となってクリスマス気分を楽しんでいます。

　英二は良い気分にひたりながら、ふと目を細めます。すべてがきらめいていて、明るくて、その中心で光り輝く彼女を見つめます。
　寝子高生だった頃にも、彼女とふたり、いろんなクリスマスを過ごしてきました。寝子島ですからそれはもう、個性的かつ波乱万丈、一難去ってまた一難だったりしつつも、最後には幸せ満タン！　いつだってその中には、彼女の笑顔がありました。
「っしゃー、着ぐるみゲット！　あれ、英二くん、どうかした？　ぼんやりしちゃって」
「あ、ううん。なんでもないよ。次はどうしようか？」
「そうだな～、あっ！　おなかすいた！　なんか食べようよ～、もーおなかと背中がくっついちゃうよ～」
「あはは、大げさだなあ。あったかいポットパイが人気らしいよ、食べてみようか」
「おおっ、いいね～！　食べようたべよう！」
　どんな時も屈託ない彼女。笑顔が絶えない彼女。
　その隣に、ずうっとずうっといられたなら。そんなふうに、英二は願ってやみません……クリスマスだし、いいですよね？　ちょっぴり、夜空の星にお願いしてみても。
「ポットパイ、ポットパイ～。あったかポットパイ～」
「ふふ……あ、ツリーもあるよ。記念撮影しようか」
「いいね～！　楽しいね～、にししっ♪」
　スマホをかまえて、いっしょに自撮り。幸せな記憶も記録も、ぱしゃぱしゃ、ぱしゃり！　と、いくつも増えた夜でした。

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天地夏冬雪と墨

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