LIQUID -Star Chronicle-　不死創製編｜リアクション

LIQUID -Star Chronicle-　不死創製編

【ストーリークエスト『不死創製』（４）】

　アオイの蹴りがNo.02 スパイダーを宙にかち上げ、ロサヴィアの剣が両断する。
「＜秘石の剣・天河剣＞！！」
「ロサヴィアさん、やるう！」
「あなたもね。アオイ」
　敵は多勢だ。一体一体はそう強力ではないにしろ、油断した人間の命を刈り取る程度の殺傷能力には持ち合わせがある。そんなマシーンたちを蹴散らすにあたっては、個人的な確執にこだわっている余裕はない。
「瑠璃さん、あぶないですわ！　＜ナイヴズアウト＞！」
「あ、ありがとう……シャローテさん。今、回復しますね……？」
　にらみ合いいがみ合いはひとまず置いておいて、仲間たちも即席の共同戦線を張っている。
「いけっ、小悪魔たちー！」
「うわわ、た、助かったわ……！　あんがと、真珠ちゃん。けっこうやるじゃない？」
「ふん、だ。アオイもあんたも、気にくわないけど……今だけは、助けてあげないこともないわ。ロサヴィア姉さまのためにね！」
　瑠璃とシャローテ、真珠にマーナも並び立ち、最前線に立つアオイとロサヴィアを援護する。少なくとも今この瞬間は、ぶつかり合っている暇などないのだ。
　壁の通気口らしき穴より雲霞のごとく湧き出てくるスパイダーたちを、アオイは迎え撃つ。
「くっ……」
「アオイ！？　大丈夫？」
「このダメージを、そのまま返すよ……＜逆響波＞っ！！」
　迸る闇色のオーラがスパイダーを薙ぎ払い、蹴散らした。撃ちもらした個体にはロサヴィアの秘石の剣がトドメを刺す。
　滞らずよどみなく、流水のように見事な連携プレイだ。いつもこうであればいいのに、とロサヴィアは凛として剣を振りながらに、内心は微笑ましくそれを見つめた。
「ウーピー、敵の数は？」
　アオイが拳を打ち込みながらに問うと、ＵＷＰ２は変形機構を持つ左腕に展開した発振器からエネルギー状の刃を発現し、スパイダーを切り裂き、
「脅威的なレベルです。出現数に比較し、より迅速な処理が必要です。現在の処理ペースを維持した場合、前線は約１６分後に決壊します」
「ガンガンやっつけなきゃジリ貧だよ、ってことね……！」
　スパイダーは小型ながらにマシーンであり、鋼鉄のボディはそれなりの頑強を備える。一撃で撃破できず二、三度と追撃を余儀なくされることも多い。
「ならば」
　と、学長アンペリアが削り出しの大槍を振るい、数体のスパイダーをひと息に貫いた。
「機械仕掛けの中枢を突け。駆動を司る頭脳、動力源、そういった部位を破壊すればいい」
「脳や心臓を狙え、ということですね」
　言うが早いか、ロサヴィアの剣がスパイダーの明滅するランプもろともに胴部の中央を穿つ。電弧を弾けさせながらしばし足を痙攣じみて動かし、やがてスパイダーは動かなくなった。
　弱点部位は仲間たちへも伝播され、冒険者の刃が、弾丸が、魔法がスパイダーを撃ち貫いてゆく。多勢に無勢と思われたが、スパイダーの増え続けるペースを冒険者らの掃討する速度が上回りはじめると、形勢は逆転を見せた。
「マーナ、援護よろしく！　シャローテ、ウーピー、後方の敵は任せるわ。私は前線を死守する！」
「瑠璃、みんなへバフと回復をお願いね。真珠は悪魔を布陣して、みんなを守って」
　たとえば山のような巨神も、風雪めいて押し寄せる群れも、対峙する冒険者ひとりひとりの存在などちっぽけなものに過ぎない。それでも人間が想像を絶する災厄を前にして、時としてそれらをも退ける力を発揮するのはひとえに、つながれる意思があってのことだ。思い重ね束ねる力こそが、彼らの最大の武器にほかならないのだ。
「このまま押し切る。まずはスパイダーの生産工程を断つのだ」
　通気口はスパイダーの移動ルートともなっており、人ひとりふたりが侵入することも可能だろう。その奥にはスパイダーたちを構築している生産ラインが見い出せるだろう。それを止めねば、探索もままなるまい。
「突っ込むわよ、アオイ！」
「オッケー、ロサヴィアさん！」
　気合一閃、仲間たちの手厚い援護を背に、ふたりは暗い通気口へ飛び込んでいった。