LIQUID -Star Chronicle-　不死創製編｜リアクション

LIQUID -Star Chronicle-　不死創製編

【ストーリークエスト『不死創製』（３）】

　ネクタール実験場は巨大な錬金工房であり、機械工場でもある。巨大な蒸留窯や発光する様々な色味の液体が満たされたポンプがあちこちに目につくかたわら、ギアやクランクががしゃがしゃとせわしなく動き、そこかしこに散りばめられたランプが明滅する。組み上げられていくのは、実験場の主要な敵モンスターとして知られる殺人マシーンたちだ。今もって稼働し続けるこの施設は総じて、兵器工場のような側面を侵入者たちに見せた。
　１００メートル四方はありそうな空間の中央に立ち、人形は周囲を見渡す。
「昇降機へ続く隠し通路を捜索する。波濤の影響にて内部の構造はわたしにも分からない。徹底的かつ慎重に探してもらいたい」
　アンペリアの号令で、冒険者たちは工房の方々へと散り捜索を始める。
　ブドーは転がっているフラスコを拾い上げつつ、首を傾げた。アンペリアの言葉にどこか引っかかりを覚えた。
「……？　時の波濤の影響が無ければ、内部の構造が分かるような言い方だったな」
「お人形さん、ここのこと知ってるのかねえ？」
　幼く見えるリューキも、どこか違和感を覚えたようだ。
　アンペリアは心中になにか含んでいるように思える。
「世話になってるし、あまり疑いたくはないが……」
　レクサがくりんと首を傾け、ブドーを見上げた。サイディア王室からの追究を、少なくともアカデミーにおいては見てみぬふりをしてくれているおかげで、こうしてクエストにも参加することができる。
「レクサはおりこうさんだねえ」
　リューキが頭を撫でると、ホムンクルスは気持ち良さそうにまぶたを伏せる。懐っこくマティエとじゃれ合うような仕草も見せた。近ごろはこうして、ちょっとした感情がのぞくようにもなってきたようだ。出自不明のホムンクルスながら、ブドーにとってはやはり家族にほかならないのだ。
「学長はなにを知っているのかしら……時の波濤の源がここにあるという、その根拠はなんなのかしら」
　ソフィアもまた同じ疑念を抱く。
「もとより秘密の多い人だけれど。あまり多くは語ってくれないのよね。学長の言葉は伝わりづらいこともあるし……」
「言葉使いがね、独特なんだよね～」
　シフォンの物言いに肩をすくめる。
　彼女がいつから学長の地位にあるのかは判然としない。なぜオートマタの身体となったのかも。少なくとも分かることは、彼女が失われた歴史の向こう、月の民との戦い……かの水鏡戦役の時分から生き続けているということくらいだ。古風な物言いもそれがゆえであるのだろう。
「本当に信用できるの？　あの人」
　リキッド大陸を訪れてまだ日も浅いロロがたずねる。学長の名は広く知れ渡っているが、新米冒険者にはまだなじみが無いようだ。
「普段は魔法アカデミーの運営に尽力しているわ。信頼はしているけれど」
「まー少なくとも、時の波濤を止めたいっていう目的にウソはないと思うよ。たぶんねえ」
「ふうん？」
　同意するソフィアとシフォンに、ロロはどこか不満げに眉を寄せて見せた。長く同僚・相棒として研究や冒険をともにしてきたふたりの間柄に、入り込みがたい壁を感じたのかもしれない。
「ロロ、私とシフォンは……」
　そう口を開きかけるも、なにを伝えたものかと逡巡したところで、
「うわー、なんか来たよおー！？」
　リューキの上ずった声がひびいた。
　かちかちと鋼鉄を爪が打つ音がそこら中から聞こえてくる。壁に天井に、鋼のモンスターが這いまわるのを目にして、ロロは目を剥いた。
「な、なにあれ！？　きもちわるい！」
「＜No.02 スパイダー＞か」
　いつの間にか背後に立っていた長身の人形が、無表情のままにつぶやき、億劫そうに大槍を構える。
「さしたる脅威ではないが、数が多いな。たがいに背を預けながら挑め」
「みんな、気をつけて！」
　ソフィアの喚起にブドーとリューキもうなずき、武器を取り出し身構えた。