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LIQUID -Star Chronicle- 不死創製編
【サイドクエスト『霊台方寸』（１）】
「この地は常に、人の手の介入を拒んできました」
老爺はどこか感慨深げに目を細め、広がるラオシュ渓谷の美景を見渡した。多彩な色を成す棚田が斜面を這うように広がり、幾人もが茶摘みをしている。空は快晴。このような晴天は、このあたりではめずらしいという。しばしば大雨が降り、そのたび眼下の川の流れは増水し、飲み込まれる者は後を絶たないのだと、それでも老爺は陽光を照り返しまぶしくかがやく水面を見下ろし、微笑んだ。
「遠い祖先の時代から、こうしてここに暮らしてきたのです。どうして故郷を捨てられましょうか」
「へええ、大変だねえ……」
うんうんとうなずくカーリー（プレイヤー：長島 ゆかり）に同意し、秀蓮（プレイヤー：朝永 真深）も老爺にならって渓谷の眺望をぐるり見回す。
永い時を経て、人々はこの地へ順応してきた。その過程において、家族のため仲間のため、時に命を投げ出してでも自然の暴威に抗い、戦った者たちの貢献を彼らは忘れていない。
「つまり、これは……鎮魂の儀式というわけね」
「そうです、お嬢さん。迷える同胞を鎮め、ふたたび眠らせねばならないのです」
クエストという形を取った、これは願いだ。同胞を想う彼らの優しき哀願だ。
「分かったわ、おじいさん。この依頼、あたしたちが必ず果たしてみせるわ」
「大船に乗った気持ちで待ってて！ 私と秀蓮がバ～ッチリ、クエスト達成しちゃうからさ～」
頼もしく言ったふたりを、老爺はまぶしそうに見つめて、ありがとうと言った。
「……ふん。くだらねえ」
そんな彼女らへ、マイシャは変わらず仏頂面を浮かべながらに吐き捨てた。
勅命である、と王は冗談めかして秀蓮へ言った。実際には、先の暴乱を冒険者として見事静めた、秀蓮の功績に対する報奨といったところか。
ウーローン王朝の末席に名を連ねる漢が起こした、国家転覆の危機。王権を簒奪し、玉楼へも攻め入らんとしたファンツァ王子は秀蓮の手によって討たれた。秀蓮の内に渦巻く激情や衝動が、かの男の野望を呑み込み噛み砕いたのだ。
「……よろしいのですか？」
秀蓮の願いに王は快く応えた。すなわち、豪商である秀蓮の父をどうにか黙らせてくれと。ささやかな願いであるが秀蓮にとっては必要なことだ……あの堅苦しい家柄に縛られ、あるいはもっと物理的に自室なり蔵なりに押し込められ家名のためにこき使われるのを良しとするのは、秀蓮には耐えがたい不自由だった。
ゆえに願い、そして王からの言葉をたまわった。秀蓮よ、国を、世界を巡れと。冒険を記録として持ち帰り、時に語って聞かせてほしいと。
王にも認められ、晴れて秀蓮は自由を謳歌し、商売っ気が強く娘のことも商材のひとつとでも思っていそうなあの父親は歯噛みしたことだろうが……いや、彼ならば、それすらも商売の糧と転化してみせるのかもしれないが。ともかく秀蓮はそうして、冒険者の道を誰はばかることなく歩むこととなったのだ。
「そんで？ ここらがクソ辛気くせえ幽霊どもの巣窟ってわけかい」
青い鬼火がそこかしこに揺れる竹林に足を踏み入れると、マイシャはやはり吐くように言った。夜更けのように静まり返り、群青色の空は霧がかってぼんやりとかすむ。くすくす、くす、とあたりにはかすかな笑い声やささやき声が満ちた。
「なーにさ、マイシャ。勝手についてきといて。手伝ってなんて言ってないでしょ？」
「うるせえ」
眉をひそめたカーリーに、眼帯の女は心底つまらなさそうに返し、
「アタシは誰の指図も受けねえ。アタシの目的は……」
剣の切っ先を秀蓮へと突きつける。
「ファンツァの大将を殺したその女を、アタシの手で殺すことだ。いいか、アタシは常にてめえを見張ってるぜ。隙を見せたなら……」
「つまり、秀蓮がほかの誰かに殺されちゃったら困るから、自分の手で守ってやろうと。殊勝なことね～」
「ちげえわ！ 全然ちげえよこのバカ、なんでアタシがこんなヤツを……！」
放蕩にして暴虐の王子ファンツァ、その右腕を自称するマイシャは、仕えるべき主が倒れ伏してからは、秀蓮をその仇として付け狙い、どこまでも追ってくる。敬愛した男を討ち果たした秀蓮の力は認めているのか、正面から斬りかかってくることはない。時おり闇討ちめいて襲いかかるフリをしたり、それでいてクエストにあっては秀蓮の敵とも共闘したり……なんとも読めない女であり、奇妙な同行者となっていた。
「！ 来るわ。気をつけて、カーリー。マイシャもね」
「うるせえ。なんでアタシがてめえを手伝うと思ってんだ」
「うわあ出た出た、ユーレイの団体さんだ～！」
音もなく、気配もなく。かつてこの地にあって、強大な自然に抗うも命を落とした、誇り高き開拓者たち。そのさまよえる魂を鎮めることが、こたびのクエストの目的だ。
＜武技幻影＞、秀蓮の手に長刀が現れ身構える。もはや己を解してはいないのか、幽霊たちは舞うように遊ぶようにひらりひらりと揺らめきながら、やがて冒険者らへ踊りかかった。
「この地は常に、人の手の介入を拒んできました」
老爺はどこか感慨深げに目を細め、広がるラオシュ渓谷の美景を見渡した。多彩な色を成す棚田が斜面を這うように広がり、幾人もが茶摘みをしている。空は快晴。このような晴天は、このあたりではめずらしいという。しばしば大雨が降り、そのたび眼下の川の流れは増水し、飲み込まれる者は後を絶たないのだと、それでも老爺は陽光を照り返しまぶしくかがやく水面を見下ろし、微笑んだ。
「遠い祖先の時代から、こうしてここに暮らしてきたのです。どうして故郷を捨てられましょうか」
「へええ、大変だねえ……」
うんうんとうなずくカーリー（プレイヤー：長島 ゆかり）に同意し、秀蓮（プレイヤー：朝永 真深）も老爺にならって渓谷の眺望をぐるり見回す。
永い時を経て、人々はこの地へ順応してきた。その過程において、家族のため仲間のため、時に命を投げ出してでも自然の暴威に抗い、戦った者たちの貢献を彼らは忘れていない。
「つまり、これは……鎮魂の儀式というわけね」
「そうです、お嬢さん。迷える同胞を鎮め、ふたたび眠らせねばならないのです」
クエストという形を取った、これは願いだ。同胞を想う彼らの優しき哀願だ。
「分かったわ、おじいさん。この依頼、あたしたちが必ず果たしてみせるわ」
「大船に乗った気持ちで待ってて！ 私と秀蓮がバ～ッチリ、クエスト達成しちゃうからさ～」
頼もしく言ったふたりを、老爺はまぶしそうに見つめて、ありがとうと言った。
「……ふん。くだらねえ」
そんな彼女らへ、マイシャは変わらず仏頂面を浮かべながらに吐き捨てた。
勅命である、と王は冗談めかして秀蓮へ言った。実際には、先の暴乱を冒険者として見事静めた、秀蓮の功績に対する報奨といったところか。
ウーローン王朝の末席に名を連ねる漢が起こした、国家転覆の危機。王権を簒奪し、玉楼へも攻め入らんとしたファンツァ王子は秀蓮の手によって討たれた。秀蓮の内に渦巻く激情や衝動が、かの男の野望を呑み込み噛み砕いたのだ。
「……よろしいのですか？」
秀蓮の願いに王は快く応えた。すなわち、豪商である秀蓮の父をどうにか黙らせてくれと。ささやかな願いであるが秀蓮にとっては必要なことだ……あの堅苦しい家柄に縛られ、あるいはもっと物理的に自室なり蔵なりに押し込められ家名のためにこき使われるのを良しとするのは、秀蓮には耐えがたい不自由だった。
ゆえに願い、そして王からの言葉をたまわった。秀蓮よ、国を、世界を巡れと。冒険を記録として持ち帰り、時に語って聞かせてほしいと。
王にも認められ、晴れて秀蓮は自由を謳歌し、商売っ気が強く娘のことも商材のひとつとでも思っていそうなあの父親は歯噛みしたことだろうが……いや、彼ならば、それすらも商売の糧と転化してみせるのかもしれないが。ともかく秀蓮はそうして、冒険者の道を誰はばかることなく歩むこととなったのだ。
「そんで？ ここらがクソ辛気くせえ幽霊どもの巣窟ってわけかい」
青い鬼火がそこかしこに揺れる竹林に足を踏み入れると、マイシャはやはり吐くように言った。夜更けのように静まり返り、群青色の空は霧がかってぼんやりとかすむ。くすくす、くす、とあたりにはかすかな笑い声やささやき声が満ちた。
「なーにさ、マイシャ。勝手についてきといて。手伝ってなんて言ってないでしょ？」
「うるせえ」
眉をひそめたカーリーに、眼帯の女は心底つまらなさそうに返し、
「アタシは誰の指図も受けねえ。アタシの目的は……」
剣の切っ先を秀蓮へと突きつける。
「ファンツァの大将を殺したその女を、アタシの手で殺すことだ。いいか、アタシは常にてめえを見張ってるぜ。隙を見せたなら……」
「つまり、秀蓮がほかの誰かに殺されちゃったら困るから、自分の手で守ってやろうと。殊勝なことね～」
「ちげえわ！ 全然ちげえよこのバカ、なんでアタシがこんなヤツを……！」
放蕩にして暴虐の王子ファンツァ、その右腕を自称するマイシャは、仕えるべき主が倒れ伏してからは、秀蓮をその仇として付け狙い、どこまでも追ってくる。敬愛した男を討ち果たした秀蓮の力は認めているのか、正面から斬りかかってくることはない。時おり闇討ちめいて襲いかかるフリをしたり、それでいてクエストにあっては秀蓮の敵とも共闘したり……なんとも読めない女であり、奇妙な同行者となっていた。
「！ 来るわ。気をつけて、カーリー。マイシャもね」
「うるせえ。なんでアタシがてめえを手伝うと思ってんだ」
「うわあ出た出た、ユーレイの団体さんだ～！」
音もなく、気配もなく。かつてこの地にあって、強大な自然に抗うも命を落とした、誇り高き開拓者たち。そのさまよえる魂を鎮めることが、こたびのクエストの目的だ。
＜武技幻影＞、秀蓮の手に長刀が現れ身構える。もはや己を解してはいないのか、幽霊たちは舞うように遊ぶようにひらりひらりと揺らめきながら、やがて冒険者らへ踊りかかった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
-
- 2025年10月22日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年10月29日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2025年10月29日 11時00分
