ある休日の一日｜リアクション

ある休日の一日

　夕方、『299coffee』でのバイトが終わってからの帰り道。
　御剣刀は、以前から小耳に挟んでいたパン屋で夕食を買っていこうと思い立った。
　ベーカリーショップ『キムンカムイ』だったっけ、と今の時間を確認する。
　確か『キムンカムイ』は19時までだったはずだ。
　急がないと、と刀は足を速めた甲斐あって、およそ閉店30分前に入店できた。
　店内の飲食スペースに、知った顔がいくつか見える……が、先に買うことにする。
「えっと、今日は何を食べようかな」
　閉店前だがまだ種類はいくつか残っている。元の種類が多いせいだろうか。
　名物メニューがサーモンサンドと知って、それをトレイに乗せる。
「選択は、スモークサーモンに普通のパンで」
　ゆっくりここで食べる時間が無いので、食べながら帰ろうと決めた。
　刀は焼きそばパンなどといったガッツリした物から、ジャムパンなどの菓子パンまで色々買うことにした。
　美味しそうだよな～これはどんな味がするんだろう、とワクワクしながら取っていく。
　レジ近くのカウンターには、ジャムやマーマレード、蜂蜜など種類多く扱われている。
　甘い物はエネルギー補給にいい。だから、毎日やっている早朝の剣術の練習の後に食べよう。
　そう考えた刀は、ジャムもいくつか選んだ。
　会計を済ませて、先程入ってきたときに目にした友人たちに挨拶する。
　ひびき、冬華、修だ。
「今日は何を買ったんだ？」
　修に話しかけたちょうどそのとき、店の出入口が開いた。
「また来たのだ。夕方お買い得パンはありますかなのだ～」
　刀の友人の１人でもある、真央である。
　入ってすぐ修と刀に気づいて、真央が近寄る。
「刀ちゃんがパン食とは何か意外なのだ……」
「以前から聞いていたからだ。今日はバイトだったからこんな遅い時間になったが」
　真央は修を見る。
「修ちゃんもパン買いに来たのだ？　焼き立てパンの魅力に殺られたのだ？」
「期末試験が近いからな。勉強のためだ」
　答えて、修はチラリと時計を見た。
　スーパーマーケット等ならば、蛍の光が流れてもいい時間である。
「維都月、俺の家の車で自宅に送るよ」
「えっ、いいのっ？」
「男子としては当然のことだ」
　話しつつ修は、テーブルの上を片付ける。
　同様に、ギリギリまで残っていた者たちも片付けし始めた。
「ラーメンケーキとかカツ重ケーキとか、見た目面白くて美味しいケーキも作ってほしいのだ～」
　真央はといえば、そんなことを頼んでいる。
「寝子島特産の寝子島パンとか寝子島ロールも作ってなのだ」
「ま、また、ボスに相談してみるデス」
　２人の会話を聞きながら、刀は店を出る。
「銭湯『ねずの湯』へ寄ろう、最近妙に行きたくなるんだ」

「あら。刀さんもお店に来てたんですね」
「ん、御剣……？」
　席を立ちながら、冬華とひびきは店を出ていく刀を見かけた。
「何を食べるのかしら」
「あいつ、いつも女の子に囲まれてるよな。まあ、あたしに口出しする権利なんてないけどさ」
「刀さんは悪い人じゃないですよ。ただちょっと……。うん」
　冬華の言葉はフォローにはならず、ただ言葉を濁しただけだった。

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