[TOS] 狂気日食｜リアクション

[TOS] 狂気日食

●紫沙倉凶平、報告を受け取る

　通信端末が小さく震えた。
　ディスプレイに表示された件名は──。

　『ヴァロラ峡谷秩序再編』

　私は受信を選択した。
　脳波が反応して画面が開く。黒字に白光の文字が淡々と流れていく。

　『作業完了』

　目を走らせる。内容について、おおまかな想像はできていた。
　新島義弘は死亡。
　ヴァロラ峡谷居住区の耕作地、温室、灌漑設備、穀倉など食料インフラはすべて徹底的に破壊。
　住民生存率は推定三割未満……想定は一割未満だった。逃走者がそれなりにいたらしい。
　もっと徹底してもよかったが、ほぼ予想を外れるものではなかった。
　大量のデータを淡々と読み、解釈していく。
　苛立ちを覚えたのも事実だ
　ガーナックに対抗可能な音響兵器を確認。結果、かなりの数の量産機が破壊に至ったという。
　投入した蘭紋〈オーキッド〉ガーナックの大半は、局地的な抵抗を受け戦域を離脱した模様。デルタに至っては、一時的な機能不全を起こしている。
　文字化けのように黒い線が一瞬だけ画面を横切り、すぐ消える。
　私は椅子にもたれ、ゆっくりと息を吐いた。
　端末の光が頬を照らす。
　勝利報告ではあろう。
　だが、そこに『勝利』はあっただろうか。
　モニターの下部に入力欄が登場した。指をかける。脳波で指示してもよかったが、手入力を選んだ。
　手で打つ。それが最も確実に、感じた苦みを身に刻む方法だと思えたからだ。
　私はゆっくりと、一行だけ文字を打ち込んだ。

> ヴァロラ峡谷──記録抹消を拒否。再生の可能性、未確定。

　この事実は、マザーの記憶にとどめておくとしよう。
　画面を閉じる。
　端末の光が消え、部屋に闇が戻る。
　窓の外、夜明け前の空がわずかに白んでいた。
　私は小さく息を吸い、静かに告げた。
「……報告、受領」
　その声は、私自身に向けたものだった。
　すでに私は、次の命令の構築に移っている。
　世界を一度、沈黙させるための命令の。

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