夏のおとまり朗読会｜リアクション

夏のおとまり朗読会

◆夜の図書館

　梓智依子は娘の楓とともに寝子島図書館へ向かっていた。
　今日は『夏のおとまり朗読会』と題したイベントが行われる。寝泊まり用の着替えや歯磨きセットなどを抱えて、予定より早く到着した。ふと楓に視線を向けると二階建ての図書館を興味深そうに見上げている。

「そういえば楓は図書館に来るの初めてだよね？」
「うん！」

　その声色からも期待しているのが窺える。中に入ってみるとたくさんの本棚が並び、多くの本が収納されている。図書館だから当然なのだが、楓からすれば新鮮な光景だった。

「うわー、すごい！　これぜんぶえほん？」
「全部絵本じゃなくて、とっても難しい本もたくさんあるんだよ」
「かえでもそれよめる？」
「もう少し大きくなってからにしよう？」
「やだ！　よんでみる！」

　これはきっと宥めでもダメだろうと感じて、智依子は手近にあった本を見せた。それは星座の写真集だった。説明文は楓にとってまだ難しかったが、綺麗な星座の写真に楓はすっかり夢中になった。

（たまたま手に取った本だったけど、楓が気に入ってよかったわ）

　そうこうするうちにおとまり朗読会の時間になった。所定の場所に移動すると他の参加者も集まっていた。
　最初に読んでもらった絵本は『よるのとしょかん』というタイトルだった。
　内容は、とある図書館では夜な夜な絵本の登場人物が本から飛び出して冒険を繰り広げるというもの。夜が舞台なので背景は暗めだが、人物たちの色が明るく描かれているので怖さは無い。むしろ人物の動きに輝きが感じられる。そこに読み手の妙が加わって２人とも物語に引き込まれた。読み終わると拍手の波が起こったが、図書館なので音は控えめ。

「すごかったね」
「うん！」

　楓は満足そうに頷いた。
　途中でおやつ休憩を挟みながら、すべての朗読が終わった。あとは寝るだけなのだが、楓の希望で夜の図書館を探検する。

（お昼とはだいぶ雰囲気が違うわね）

　智依子もこの時間の図書館に入ったことはないため、手を繋ぎながらおっかなびっくり進む。それでも普段とは違う雰囲気を十分に楽しめた。布団から見える星空と、穏やかな表情で眠る楓。その両方を眺めながら智依子も眠りに就いた。

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