業火のショッピングモール｜リアクション

業火のショッピングモール

『本日はバートラム＆ジョンソンにご来店頂きありがとうございます』

　水槻清恋が刑事として訪れた正午過ぎのショッピングモール、ミャオンレイクビレッジで。
　流れた放送を聞き、清恋は首を傾げた。

（バートラム＆ジョンソンって何？）

　何気なく目を向けたフロアマップが突然燃えだして息をのむ。
　エアコンの冷気で過ごしやすかった店内は、肌を刺すような熱気に満たされていた。
　そこかしこに這い回るオレンジ色の炎のせいだろう。

（炎が天井まで到達したら終わり……）

　以前テレビで見た消防士のコメントを思い出しながら、清恋はハンカチを口に当て、身を低くした。

◆

「響タルト様、お待たせいたしました。こちら、ニャンテンドーフニャッチ用『焚書官かく語りき　プレミアム版』でございます」
「はーい！」　
　アニメショップで元気よく返事をしたタルトは、予約票と引き替えに品物を受け取り、お礼を言って店を出た。
「ふふっ、店舗限定特典、描き下ろしタペストリー、ゲットだね！」
　うきうきのタルトは通路のソファに座って特典を拝むことにした。現代に蘇った文豪たちが、満開の桜の下、花見としゃれ込むイラストである。

（ニャンテンドー版で新登場、アウトローの黒島金四郎とくっつけるのは堅物軍人八村虎之助かな……着流し中年猫田爪彦と大人の関係という手も……いやいや、ピュアなわんこ少年三毛澤勝治とのギャップもいい……選べないよ～！）

　存分に想像を楽しんだ後、ゲームをロッカーに入れて別の店を見て回ろう……と思った時。

　呼び出しを告げる放送が流れて、熱風が吹き荒れた。
　周りの客が悲鳴をあげるかと思いきや、いつの間にやら誰もいない。

　ほんの一瞬で、夏のショッピングモールが、炎と煙に包まれる火災現場に変わってしまったのだ。
「もしかしてこれ……ホラーの世界？　ふふっ、ちょっと調べてみようかな！」

◆

「バイトに行ったら火災に巻き込まれるとかないでしょ！？」
　その火災は、お掃除に勤しむ落合まゆらのもとへ押しかけてきた。
　かつては学生だったまゆらも、今では声優事務所『キャットボックス』に所属する新人声優だ。
　駆け出しゆえに声優業だけで食べてはゆけず、アルバイトをせねばならない。
　それも、オーディションや収録に差し支えが無いよう短期のやつを。
　
（だから、ミャオンレイクビレッジの清掃員のバイトにしたのに～！）

　それまで見えていたミャオンの店内は、紙が燃え上がるように消え、代わりに現れたのはレトロな雰囲気の漂うまったく別の店舗だ。

（バイトが終わったら、ゴアラ最新作とミスティックエールの劇場版見ようと思ってたのに！　しかもここ、さっきまで掃除してた『いぬエリア』じゃないし！）

　通報しようにもなぜかスマホは圏外で、なんとか避難せねばと煙と炎のない方へと歩き出したまゆらは――倒れている男性を見つけた。

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