業火のショッピングモール｜リアクション

業火のショッピングモール

　１Ｆのインフォメーションセンターに到着した清恋は、息を整えながら、カウンター上のクリップボードを手に取る。
　古い日付が書かれた迷子の名簿で、最下部には狭山親子の名があるが、父親が子供を引き取りに来た記録は無い。
　細切れの防犯カメラ映像から時系列を推測するならば、拓人が迷子として保護された後、火災が起こり、一旦は父親の啓一と巡り会ったものの離ればなれになり、その後。

　――二人は亡くなったのではないか？

　清恋は舌打ちして、名簿の一番上の紙をポケットにしまった。

◆

「あれ？　ここだけは、ミャオンの『ねこエリア』みたい。変なの」
　炎と共にどこにでも現れる斧男から逃げて、やっと１階にたどりついたまゆらとタルト、狭山親子の４人。
　タルトは、不思議そうなまゆらの足下に近づき、共に少女が祈る姿の慰霊碑を見上げた。
　少女の足下、大理石製の台座には金属のプレートがはめ込まれており、かつてここにあった百貨店で起きた火災のことが書かれている。
　碑の裏側には犠牲者の名前が刻まれているとの記述に、タルトは見に行ってみるも、狭山親子の名前は無い。

（名前が無いってことは、助かったのかな？　良かった～）

　安堵して拓人のもとへ駆けよるタルトの目前を――何かが凄まじい勢いで通り過ぎた。

「危ない！」

　タルトはまゆらの両腕に抱えられ、その場から離れて初めて、投げられた斧が眼前を通過したのだと悟る。

「そんな、出口はすぐそこなのに……！」
　まゆらの視線の先には、肩から上を燃やし続ける男。
「そこまでだ！」
　じりじりと迫る炎に４人が後ずさりするそこに、上から声が降ってきた。
　タルトが吹き抜けの真上を見上げると、スーツ姿の女性――清恋の姿がある。
　清恋は消えた照明装置を伝って移動し、くるりと宙返りをして床に降り立った。
「警察だ！　もうこんなことはやめなさい！」
　タルトがお巡りさんが来てくれた！　と喜ぶ間もあらばこそ、清恋が警察手帳を掲げたのは、狭山親子の方だった。
「お、お巡りさん？　斧を持ってる人はあっちです！」
　拓人を抱えて首を振る啓一に、清恋は写真と名簿の紙を突きつけた。
「いいえ。狭山啓一さん、拓人さん。あなた方はもうお亡くなりになっているのでしょう？　生きて再会したのなら、この名簿がそのまま残っている筈はありませんからね」
　清恋の言葉とともに、地面が揺れて。
　空気にヒビが入り、外から声が聞こえてきた。

　――ミスティックエール劇場版、たのしみ～！

　――うわー、パンケーキ屋さん並んでるなぁ。

　タルトは、床に座り込んだタルトのリュックから、水筒が覗いているのに気づき、引っぱり出そうと飛びついた。
「にゃ！　にゃーあー！」
「え？　これ？　こんな少なくて消せるかな……」
　まゆらがタルトの意をくみ、蓋をとった水筒を斧男に投げつける。

　抵抗もせず水を被った斧男の炎は消え――Ｔシャツに描かれた新幹線が下半分だけ見えた。

「俺たちはもう、ここにいちゃいけないんだよ。行くべきところがあるんだ」

　斧を手放した男の声は、よく通る――聞いたことのあるそれだ。

「お父さん？」
　拓人が背後にいる父親と、目前の――肩から上が真っ黒になった男を交互に見る。

「あぁ、そうか。今まで、私はずっと拓人を捜して……」
「やっと気づいてくれたな」
　啓一はふらふらと歩き、男に近づいて両手を合わせると、融け合うように一つになった。

「お巡りさん、落合さん、猫ちゃん、私を拓人と会わせてくれてありがとうございます。今までずっと、見つけられなくて。何度も『あの日』に戻っていたみたいです」
　啓一は半分火傷した顔で、深く頭を下げた。
「拓人、ごめんよ。ずっと迎えに行けなくて。熱かっただろう？」
「お父さぁん……」

　泣き出す息子を父親が抱えた時、空気に入ったヒビは大きくなり、エアコンの冷気が侵入してくる。
　親子はそのまま慰霊碑の方へ歩いて行き、祈る少女に迎えられるようにして――消えていった。

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