フェアリーランド・バレー開拓記　その２｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その２

【マッパー道楽】

「ふ～～～う……」
　えらく弛緩した声がぷしゅうと、ティオレの口からは漏れ出しました。

　星くずビーチの白浜はラメを散らしたようにきらめいて、寄せては返す波間もきらきらきらり。その上に浮かべたサメ型のフロートに寝そべり、ゆったりのんびり。日光浴。
「これがあるから、たまらないのよね。ここでの暮らしは」
　お宝ハントの成果は今のところ空ぶり続き。仕方なしに副業のつもりで始めたマッパー稼業はこれが大ウケ。世の中なかなか、思ったとおりにはいかないけれど。
「まーいっか♪」
　鼻歌ふんふふん、心地よくちょーどイイお日さまの光を一心に浴びて、お肌はこんがり小麦色。こんな暮らしも悪くはないかも♪
「よーティオレの姐さん、ラムネ飲むう？　キンキンに冷えてるぜ～」
「ああ。ネイサン。ありがと、一本もらうわ」
　ビーチを管理するワニのネイサンは、すぐそばにある釣り小屋の主です。アロハシャツを着てカーゴパンツを履いて、悠々自適に暮らす自由人。釣った魚を食堂のオリバーなどに売って暮らしていますけれど、釣りも趣味のうちだと言います。
　いつだったか、フローブロー・マウンテンでの冒険のさなかに出会った温泉の管理人、ゴリラのマイキーとは、唯一無二の親友同士だそうです。
「んじゃ、カンパーイ」
　サメフロートによりかかり、大きな口でラムネのびんをあおるネイサン。
　彼はこう見えて……いえ見た目どおりにでしょうか？　ちゃらんぽらんなようでいて、案外シタタカなワニさんです。ティオレはしゅわっとさわやかなラムネをひと口飲んで、たずねます。
「で、用件は？」
「姐さんのマッパー稼業に、新たな風を吹き込んでみないか？　海風の香りってやつをさ」
「ふん？　続けて」
「沖の向こう、ほら、見えるかい？　あの島さ。柘榴島ってんだが、マロン先生の話じゃあ、フェアリーランド・バレーとはまた違った、独立した植生や生態系が広がってるそうでさ」
「ふんふん」
「誰も知らないダンジョンやお宝だって眠ってるかもよ。そんなところを姐さんが開拓して、マップにして、集まってきた客をおれが船に乗せて送り出す。どうだい、金のニオイがしてこないか？」
　ワニさん、ニヤリ。
　ティオレはしばし腕組み、考え込んだ後に、
「……ふふん？」
　やっぱり、ニヤ～リ。マッパー商売が海へも広がりを見せるのか、すべてはティオレ次第です。