フェアリーランド・バレー開拓記　その２｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その２

【週末はダンジョンへ】

「ぼ、冒険？　ですか？」
「うん、そうそう！　今、フェアリーランド・バレーでひそかなブームの兆しってね」
　想花が雑貨屋ひまわりへ立ち寄るなり、カバのマチコさんが嬉々として言ったのです。『冒険、買わない？』と。
　なにやら気になる響きではありませんか。
「ティオレちゃんがね、手頃なダンジョンとか鉱山の歩き方とか、その場所で取れる特産品とか開拓に使える素材とか、まとめてくれててね」
「ああ、あの星幽塔出身の……」
「『ライトな冒険ＭＡＰ』って、誰でも気軽にスリルを味わえちゃうのよ。想花ちゃんもどお？　挑戦してみない？」
「むむム」
　正直、惹かれます。すっごく心惹かれます。
　ダンジョン！　冒険！　モンスターハント、お宝ゲット！　昔取ったキネヅカがうずきます。学生時代にしこたま書いたファンタジー小説たち。１０年も前にめちゃくちゃやり込んだオンラインゲーム。少し前まで売れっ子モデルかつ作家として一世を風靡したとはいえ、インドアでオタクな少女時代に培われた異世界へのあこがれは想花の心の中、失われてはいなかったようです。
「はい、『ライトな冒険ＭＡＰ・盗賊王の財宝？編』ね、まいどあり～♪」
　結局あらがえずにマップを購入。いそいそと出かけてゆく想花でした。
　農作物で稼いだお金で、鍛冶屋さんで剣を一本と軽めの盾を購入。ウィンドフォッスル鉱山、第四層の横道へと挑みます。
「ソフィアみたいに、杖から氷の魔法でも出せれば良かったんだけど……」
　ＶＲＭＭＯＲＰＧでしこたま遊んだ懐かしい記憶がよぎりつつ、腰のランタンの明かりを頼りに鉱山の奥へ。
　自己評価はヘタレでビビリな想花ですけれど、冒険へのあこがれや湧き上がったやる気が上回ったのか、さほどの恐怖は感じません。むしろ、やったるぜ！　てなカンジです。冒険ＭＡＰと複雑な道を見比べて、
「ええと、なになに？　『世界中をまたにかけてお宝を盗み出してきた大盗賊が、やがてたどりついたこの地のどこかに全財産を隠した……という伝承があるそうよ。なんだかマユツバっぽいけど、探してみるのもいいんじゃない？　実際、それっぽい紋様を第四層で見かけたしね。ま、グッドラック♪　※たまーにモンスターがたくさん詰まった罠みたいな部屋があるから気をつけて。まあ、ボケッとしてうっかり踏み込んだりしなきゃ大丈夫だけどね』。ふむふむ……」
　たしかに、岩壁をランタンで照らすと時おり、奇妙なレリーフがぼんやり炎の中に浮かび上がります。例えるならマンガに出てくる怪盗がつけてるような、目元だけ覆うタイプの、これつけてる意味ある？　みたいなマスク。そんな感じの形です。
「もしかしたら本当に、お宝が……！？」
　たったかたったか、想花の足取りは弾むように軽くなりました。スキップめいて、さらに奥へ奥へ。
　まあ、すこうしばかり、気がゆるんでいたといえばそうかもしれません。
「……えっ」
　うっかり踏み込んでしまった小部屋の中には、スライム。コウモリ。なんか丸まって突撃してくるでっかいダンゴムシ。鋭いハサミのカニみたいなやつ。コワそうなヤツがぎゅうぎゅうに詰まった、いわゆるモンスターハウス的なとこでした。
「ひええええええええええ！？」
　剣のひとつも振るうことなく、ダッシュ！　一目散に鉱山の入り口へと逃げ帰りました。

　想花の初めての冒険は、苦い結果となりました……けれど。
「はは……あははは」
　ちょっとしたスリルは味わえた、かも？