フェアリーランド・バレー開拓記　その２｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その２

【オールイン！】

　物事を効率的に考えることは、人生において最適解とする向きもあれば、何ごとも省みない消費優先の現代でともすれば味気ない、盲目的な悪習ととられることもあるでしょう。効率！　最適！　なんて事あるごとに叫ぶようなのは、風情を解さない無粋として厭われたり、遠ざけられてしまうものなのです。
　なにごともほどほどなのが、誰にとってもいいアンバイ……とはいえまあ、効率をもってなにを求めるのか、誰が求めるのか？　といったあたりによっては、それをこそ楽しむ余地が生まれたりもするものかもしれません。今日の柚春とワットなどがその一例ではありましょう。
「せっかくだもん、楽しいことはぜーんぶやっちゃおうよ！」
「それもありだねえ。あはは」
　今日はゆっくりデートしようか？　それとも新商品の材料でも探しにいこうか。それとも、どっちもいっしょにやっちゃう！？
　ってなところから、本日の予定はフェアリーランド・バレーをめぐる素材調達デートとなりました。そう、やりたいことはぜーんぶ、まとめてやっちゃえばＯＫ！　ほかならぬふたりがそうと望むなら、慌ただしさも楽しさへと変わりました。
「まずは星くずビーチで、海藻を取ろうよ。ほらネイサンさんが言ってたやつ、保湿成分に優れてるっていうから、スキンケアグッズなんかに使えそう」
「いいねえ、新しい商品が増えそうだ。その後は図鑑の資料を充実させるために、森へ行こうか。珍しいものがたくさん見られそうだよ」
「うんうん！　で、最後はやっぱりフローブロー・マウンテンの温泉だよね。ぜーんぶ回ろうね、もちろんデートしながら！」
　というわけでさっそく準備を整えたら、出発！　すててててっ。
　どこまでものんびりなこの街で、暇を惜しんできびきびと動くのは、ふたりにとってマイナスなことではありません。ふたりだからこそ、いっしょだからこそ、あまりにもすべてが輝いて見えるのです。立ち止まってなんていられません。ぜーんぶまとめて、彼といっしょに、体験したいから！
「やったー、海草ゲットだよ！　さっ、次次！」
「よーし、森だね。貴重な花にキノコが待ってるよお」
　ノリノリで東奔西走、希少な材料をゲットゲットゲット！　もちろんそのさなかにはむぎゅっとしたり、イチャイチャしてちゅうっとしたり、デート気分を満喫することも忘れません。

「っと」
　時にちょっぴり立ち止まり、たずねる配慮もありました。
「ワットの興味のあることも、いっしょにやろうよ。予定のひとつやふたつ、今から増えても変わらないよ、きっと。なんでもやっちゃおう！」
「そうかい？　それじゃあねえ」
　ふむ、としばし考えて、見つめたワットの視線の向こうには、ぽっかりと口を開いたウィンドフォッスル鉱山。
「レアな鉱石由来の顔料なんて、あたらしくて画期的で斬新な商品の材料になりそうだって思わない？」
「それは……心惹かれちゃうね。よーし、行こう！　すぐ行こう！」
「おーっ」
　どっさりこんと素材は大漁。湧きだすアイディアは留まることを知らず、でありました。

このページにイラストを設定する