フェアリーランド・バレー開拓記　その２｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記　その２

【順調です】

「ほう、新しい図鑑の編纂を！」
　嬉しい報告に、ヤギのトーマス町長の喜びようといったら。
「フェアリーランド・バレーの植生の調査はまだまだ途上でね。君たちの図鑑はきっと、大いに開拓の助けになるはずだよ。いやあ、素晴らしいね」
　稲積柚春とウォルター・Bはぱちり、ハイタッチ。入植時に町長から借りた図鑑が、ふたりの新生活の足がかりになったものですから、その恩を返す機会があればとずっと考えていたのです。
「そうだ、資料館のマロンくんには話したかね？　きっと彼女も力になってくれるだろう」
「はい、実はもう協力を取り付けてて。調査報告をまとめてもらったり……雑貨店のマチコさんには製本のお手伝いをしてもらうつもりです」
「うんうん、実に素晴らしい！　私も協力は惜しまないよ、できることがあったらなんでも言っておくれ」
「ありがとう。進展があったらまた報告させてもらうよお」
　役場で町長へお知らせしたら、次はカバのマチコさんの雑貨屋ひまわりへ。今日は予定がてんこもりでして、ぐずぐずしていられないのです。
「ほらほらワット、走って走って、頑張って！」
「お～」
　手をつないでぐいぐいぐい。柚春の弾けるような若さと比べれば、最初はヘタりぎみであったワットことウォルターさんでしたけれど、近頃はいくらか体力がついてきたようです。なにしろ歩きやすい舗装路も参道に階段も、便利な公共交通もないものでして。
「いやあ、ここで暮らしてると、どんどん健康になってく気がするねえ」
「いいことだね！　ワットにはずーっと長生きしてもらわないとっ」
　そんなこんなで雑貨屋さん。カバのマチコさんには、柚春が作った商品を店内におかせてもらったり、大変お世話になっているのです。
「あらいらっしゃい、おふたりさん！　今日もラブラブねー♪」
　キャハハと笑うマチコさんは、いつも愛嬌たっぷり。
「柚春ちゃんの消臭剤は今週も大人気よ。女の子はいつだって、どこだって身だしなみには気をつけたいものね。もちろん男の子もね？」
「あはは。みんなのお役に立てて良かったです。今、ほかの商品もあれこれ考えてて、マチコさんの意見を聞きたくて……」
「ふむふむ！　ぜひ聞かせてちょうだい」
　この土地で手に入る特有の果物、あるいは海藻、それに泥などをボディソープとか。香りに敏感な動物のみんなにも使えるような、ルームミストとか。アイディアはいくらでも湧いてきました。それもこれも、フェアリーランド・バレーのゆったりまったりとして、それでいて刺激もたっぷりな有意義生活のおかげというものです。
「なーるほど、それはいいわね！　商品化にこぎつけたら、ぜひウチの店に置かせてちょうだい！　あ、いっそあなたたちふたりのプライベートブランドとして売り出すっていうのはどう？」
「ブランドかあ、憧れちゃうかも……！」
　マチコさんと商品の引き渡しやマージンについてコマカイお話を詰めてから、お次はアナグマ食堂へ。手をつないでたったかたかたん、軽やかに。
「お昼を食べるついでに、オリバーさんに聞きたいことがあって。食材の、いつもは捨ててる部分で、もしかしたら再利用できるものがあるんじゃないかと思って。意外なものから意外な商品が生まれるかもしれないよ」
「へえ、さすが柚春。目の付けドコロが違うねえ」
「ふふふ、そうでしょー？　もっと褒めてもいいんだよ、ワット♪」
　忙しいけれど、充実感はたっぷり。イチャイチャ共同作業で、満たされる毎日です。