君と旅して。ふたりの夏は、最果ての星空にかさなる｜リアクション

君と旅して。ふたりの夏は、最果ての星空にかさなる

　そぉっと忍び込むように扉を開け、中を確認する。
　電気を付ければ、手狭の部屋の中でぴっちり隣り合わせになった二組の布団が目に入った。
　もちろん、見慣れたスーツケースに旅行鞄もあることから――『間違い』の線はない。
「……えっ」
　確かに大型連休中、部屋を確保するのも大変だっただろう。
　野宿をすることを思えば、同室なんて問題ではない。
（むしろ……ああ、いや、うん）
　誰に言い訳するでもなく、修は咳払いをすると布団の元へ足を運んだ。
「ちょっとだけ、離しておこうか」
「あっ……そ、そうだね！　プライベートな空間、大事だよねっ！」
　何もしないという誓いを込めて。寝顔すら覗き込まないという安心を確保するために。
　急いで修は布団を離し、あおいはその間に２人の荷物を中央に置いて、即席の『境界線』を作る。
　これで完璧な安心安全設計。部屋のように『間違い』なんてないはずだ。
「…………」
「……ねぇ、なんか逆に照れない？」
　まるで、全力で意識していますと言わんばかりで、少しおかしくなってきた。
　くつろぎウェアに着替える間は廊下に出ることにしたり、いろいろと取り決めはあったけれど。それでも眠る頃には少しだけバリケードは緩和されて、僅かな隙間で２人の手は触れあう。
「大好きだよ」
　それは『おやすみ』の代わりに囁かれた、安眠の魔法の言葉。

　別々の街――東京と福岡。
　それぞれの部屋に戻っても２人は言葉を交わしていた。
　予定外のハプニングが詰まった沖縄旅行のことや、これから待っている前期試験のこと……差し当たって目の前にある荷ほどきのことと、話題が尽きることはない。
「こっちは準備できたよ」
　ほうじ茶のように香ばしい香りのするゴーヤ茶を、１度氷の入れた耐熱カップで冷まして、それを丁寧に琉球グラスへと移す。
『うん、こっちも！』
　ならばと通話をビデオモードへ切り替えて、スマホの前で微笑み合う。
「ほら、画面に合わせて。せーのっ」

　――カチン。

　画面越しに、２人のグラスが重なったような音が響く。

　目の前に星はなくても、そこにあるのは――心の距離を越えてつながる温度。
　旅は終わったけれど、日常の中に、あの時間はちゃんと残っている。

　２人はまた、日々の中で新しい『今』を重ねていく。

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あとがき

担当マスター：浅野悠希
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この度はリクエスト頂きありがとうございました、浅野です。

いっぱい詰め込んだ沖縄旅行。
前後編合わせて、いかがでしたでしょうか。

予定通りにいくもの、いかないもの。
予定通りじゃなかったから見えたもの、見えなかったもの。
旅行に関してもそうですが、それ以外の部分でもお伝えできていればいいなと思います。

また素敵な場所へ、思い出を重ねに行く姿を拝見できれば嬉しいです。

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