君と旅して。ふたりの夏は、最果ての星空にかさなる｜リアクション

君と旅して。ふたりの夏は、最果ての星空にかさなる

　島の中央部をぐるぐると。
　公園の周囲を唸りながら歩くあおいは、何を探しているのだろう。
「この辺りって聞いたんだけど……」
　僅かな街灯を頼りに暗い草木の間をじぃっと眺め、深く深呼吸。ここまで来ると、修もこれが単なる寄り道ではないということがわかってきた。
（……あおいの目的は、さっきの星空じゃないのか？）
　彼女を真似て、修も息を吸い込んでみる。ぬるい暑さで蒸された緑の中、僅かに甘い香りがした。
　そりゃあ、南国だ。花のひとつやふたつは咲いてるだろう。
　今日のドライブでも楽しんだし、昨日のサイクリングの途中でだって写真を撮った。
「あった！　ねぇ、ほらっ……！　ちょっと下を見てっ」
　歓声をあげるあおいに言われるがまま視線を向け、息をのむ。
　連なるつぼみ、線香花火のように広がる無数のおしべ。
「一晩しか咲かない、幻の花なんだって」
　昼間に少し工房のお手伝いをしてたとき。今年はすでに暑い日が続くから、見られるかもしれないと教えてもらったサガリバナ。波照間では自生していないから、タイミング以上に見られる場所も限られる花。
「これ……」
「さっきはね、計画したみたいに言ったけど……考えてたわけじゃなかったの」
　昨夜見上げた星空のようにびっくりすることを、修に届けたい。気持ちはあっても、星空をリベンジするくらいしか思いついていなかったと笑い、あおいは悪戯な顔で微笑んだ。
「泊まっちゃえば、なんとかなるかなって！」
　本当に、好きになったほうが負けかもしれない。
　彼女の気持ちを噛みしめて、修は花をじっくり見るように屈んだ。
「……すごく、びっくりした。こんな奇跡的な瞬間をあおいと見てるなんて、夢みたいだ」
　今朝なら咲いていなかったし、最終便の船に乗っていたら開花は見届けられなかった。
　延泊を考えてくれていたからこそ、見ることができた花。
「今度は、ちゃんと見られる時期に来ようね」
　花は一夜限り。でも、来年だって咲く。
　まるで短い瞬間を重ねる２人の思い出が、少しずつ積み重なっていくように。

　宿に戻り、それぞれルームキーを受け取ると、フロントのスタッフに「もうお客様だからね」と笑って念押しされてしまった。
　なのであおいはその場で借りていた食器を返し、２人は改めて今回の件に感謝を述べて部屋に向かう。
「さすがに疲れたね」
「だね。荷物、部屋まで運んでくれたみたいで助かったよ」
　昨日も石垣島から渡ってくるのに早起きをしたし、連日夜まではしゃぎ通しだ。
　今夜こそゆっくりして、本島に戻り――そしてまた別の地へ戻るというのも寂しさはあるが、致し方ない。
「また明日のことも話したいし、遅くまでメッセージ送っちゃうかもだけど」
「構わないよ、あおいが休める時間までならね」
　顔を見合わせ笑い合い、自然と２人の足が止まる。「おやすみ」と言ってしまえば、何かが終わってしまうようで、もったいなく感じるからだろうか。

　……いや、それだけではないようだ。

　同じタイミングで足を止めたことに疑問を持って、修は部屋番号を見る。
　手元のルームキーと同じ番号で、間違いは無い。けれど、彼女もまた部屋番号を確認し、こちらを見ている。
「え……？」
　そんなまさか。
　いくら忙しくても、そんな初歩的なミスをされるわけがない。短い間でも一緒に働いたスタッフを信じ、２人は鍵を見せ合うのだけれど――やっぱり、それは同じで。
「……え？」
　しばし顔を見合わせ、もう一度部屋番号を確認して鍵を見る。
　何度見ても同じ。どういう状況かわからず暫く黙り込んだあと、やっぱり同じ言葉が２人の口から漏れた。

このページにイラストを設定する