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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
この手で、君と。This is where we begin
バルミュラル城を後にして、ロイヤルブルーのスポーツカーはゆったり北へ。
窓の外を流れる群馬の自然は、より深い山々と清らかな水の流れが織りなす絶景へと変わっていく。
もっと先に行けば、どんな景色が広がっているのだろう――そんな期待で持ちきりの車内に、ぶすくれた顔をして座っている者がいた。
カプセルギアであるвор――いや、勝手に表情を変えることなどできないはずなのだが、どうにもドリンクホルダーに座っているだけには見えない。
ときおり「ворも見てよ」と柚春に位置を調整されるのに、何故か揺れの少ない快適な高級車の中で僅かな振動を拾い、彼はじっとりとウォルターを見つめていた。
（ほんっっっとに、何もなし？ こんな所まで来ておいて？ 柚春がすっげー期待してたんですけど??）
その眼差しは光の加減で睨んでいると言っても過言ではなく、ウォルターに圧力をかけてくる。
けれど、喋れぬ彼の正体を知るウォルターは、心中察して苦笑するしかない。
薄々と柚春も気付きかけているようだが、ворは緑林 透破としての少年の心を宿していた。玩具が心を持ったのか、不思議な存在が玩具を依り代としたのかは本人のみぞ知る話だけれど、彼が黙って連れられる玩具では無いというのは確かなようだ。
（柚春も柚春だ！ コイツの良いように騙されてねーか？ もっとやりたいこと、主張しろよ！）
想いだけは人一倍強いくせに、変なところで遠慮をする。そんな柚春の夢に忍び込んで発破を掛けることも、人型になってデートを見守ることもしばしばあったけど、この２人と来たら明確に関係を進めない。
それが、人間のルールであり難しい線引きなんだということは、彼女が零していたから知っている。そんなものに縛られるだなんて、ウォルターも大した男じゃないんだなと侮っていたときだってあった。
（それでも……覚悟を決めたから、ココに来たんじゃねーのかよ）
幾分かウォルターにも信を置き始めて、彼になら柚春を任せられると思っていたのに。期待外れかと吐きたい溜息は透破の心の中でぐるぐると渦巻いた。
（……どーなるんだろうな）
２人の行く末も、そして自分も。
彼女が幸せになるのを見届けたとき、何でも話しかけてくれる今の関係は、変わってしまうような気がした。
ひんやりとした、けれどどこか清々しい空気。車は静かに諏訪峡へと到着した。
眼下には、春の雪解け水が滔々と流れる川。その轟音が木々のざわめきと共に耳に響き、渓谷の断崖は墨絵のような岩肌に陽光が淡く差し込んで、自然が作り出した雄大な景色が広がっている。
「わぁ……っ！」
都会では味わえない静謐さに、思わず２人は息を飲んだ。
紅葉が有名らしいけれど、岩肌へしがみつくように咲いている山桜も、程よく淡い桃色の彩りを添えていた。
「……綺麗だね、ワット」
こういうときの彼は、少年の心を思い出してはしゃいでしまうことが多い。
だから柚春は置いて行かれないようにしっかり手を握り、今は静かに景色を見つめるウォルターを見つめた。
普段の教壇に立つ時とは違う、けれど好奇心に満ちあふれたでもない、穏やかな顔。
「ありがとう、旅行に誘ってくれて」
そのまま２人は、渓谷に沿って整備された遊歩道をゆっくりと歩き始める。
春の匂いが混じった土の香り。周囲にはほとんど人がおらず、聞こえるのは川のせせらぎと、時折吹く風の音だけだ。まるでこの広大な自然の中に、２人だけが取り残されたような気さえして、柚春は迷いながら呟く。
「明日は、誕生日を祝うだけじゃ……ない、もんね？」
期待と確信。
まだ『生徒』である自分からの問いは、授業の質問でもないと彼は答えてくれないだろう。
その区切りを守ろうとするウォルターの意思は尊重したいけれど、彼は魔法の呪文も授けてくれた。
――明日のお楽しみ。
聞きたいことはいっぱいある。
言いたいことも、確かめたいことも、ずっと我慢してきたことだって。
期待するように見上げてしまうのを止められない。そんな柚春をウォルターは言葉無く見つめ、何も答えないまま一歩だけ彼女との距離を詰めた。
優しく見守るような彼の笑みに、柚春も喉まで出かかった願いを寸前で言葉を飲み込む。
「明日、かぁ……」
それはまだ遠いようで、手を伸ばせばすぐそこにあるような気もした。
今だって気持ちは変わらないし、この手を離したくない。これからもずっと歩いていきたいと思っている。
でもそれは、生徒じゃなくなった未来に繋がる話だからこそ、願うのは今じゃない。
２人の間に流れる、言葉にならない確かな想い。
春の渓谷の勢いでさえ、流すことはできなかった。
窓の外を流れる群馬の自然は、より深い山々と清らかな水の流れが織りなす絶景へと変わっていく。
もっと先に行けば、どんな景色が広がっているのだろう――そんな期待で持ちきりの車内に、ぶすくれた顔をして座っている者がいた。
カプセルギアであるвор――いや、勝手に表情を変えることなどできないはずなのだが、どうにもドリンクホルダーに座っているだけには見えない。
ときおり「ворも見てよ」と柚春に位置を調整されるのに、何故か揺れの少ない快適な高級車の中で僅かな振動を拾い、彼はじっとりとウォルターを見つめていた。
（ほんっっっとに、何もなし？ こんな所まで来ておいて？ 柚春がすっげー期待してたんですけど??）
その眼差しは光の加減で睨んでいると言っても過言ではなく、ウォルターに圧力をかけてくる。
けれど、喋れぬ彼の正体を知るウォルターは、心中察して苦笑するしかない。
薄々と柚春も気付きかけているようだが、ворは緑林 透破としての少年の心を宿していた。玩具が心を持ったのか、不思議な存在が玩具を依り代としたのかは本人のみぞ知る話だけれど、彼が黙って連れられる玩具では無いというのは確かなようだ。
（柚春も柚春だ！ コイツの良いように騙されてねーか？ もっとやりたいこと、主張しろよ！）
想いだけは人一倍強いくせに、変なところで遠慮をする。そんな柚春の夢に忍び込んで発破を掛けることも、人型になってデートを見守ることもしばしばあったけど、この２人と来たら明確に関係を進めない。
それが、人間のルールであり難しい線引きなんだということは、彼女が零していたから知っている。そんなものに縛られるだなんて、ウォルターも大した男じゃないんだなと侮っていたときだってあった。
（それでも……覚悟を決めたから、ココに来たんじゃねーのかよ）
幾分かウォルターにも信を置き始めて、彼になら柚春を任せられると思っていたのに。期待外れかと吐きたい溜息は透破の心の中でぐるぐると渦巻いた。
（……どーなるんだろうな）
２人の行く末も、そして自分も。
彼女が幸せになるのを見届けたとき、何でも話しかけてくれる今の関係は、変わってしまうような気がした。
ひんやりとした、けれどどこか清々しい空気。車は静かに諏訪峡へと到着した。
眼下には、春の雪解け水が滔々と流れる川。その轟音が木々のざわめきと共に耳に響き、渓谷の断崖は墨絵のような岩肌に陽光が淡く差し込んで、自然が作り出した雄大な景色が広がっている。
「わぁ……っ！」
都会では味わえない静謐さに、思わず２人は息を飲んだ。
紅葉が有名らしいけれど、岩肌へしがみつくように咲いている山桜も、程よく淡い桃色の彩りを添えていた。
「……綺麗だね、ワット」
こういうときの彼は、少年の心を思い出してはしゃいでしまうことが多い。
だから柚春は置いて行かれないようにしっかり手を握り、今は静かに景色を見つめるウォルターを見つめた。
普段の教壇に立つ時とは違う、けれど好奇心に満ちあふれたでもない、穏やかな顔。
「ありがとう、旅行に誘ってくれて」
そのまま２人は、渓谷に沿って整備された遊歩道をゆっくりと歩き始める。
春の匂いが混じった土の香り。周囲にはほとんど人がおらず、聞こえるのは川のせせらぎと、時折吹く風の音だけだ。まるでこの広大な自然の中に、２人だけが取り残されたような気さえして、柚春は迷いながら呟く。
「明日は、誕生日を祝うだけじゃ……ない、もんね？」
期待と確信。
まだ『生徒』である自分からの問いは、授業の質問でもないと彼は答えてくれないだろう。
その区切りを守ろうとするウォルターの意思は尊重したいけれど、彼は魔法の呪文も授けてくれた。
――明日のお楽しみ。
聞きたいことはいっぱいある。
言いたいことも、確かめたいことも、ずっと我慢してきたことだって。
期待するように見上げてしまうのを止められない。そんな柚春をウォルターは言葉無く見つめ、何も答えないまま一歩だけ彼女との距離を詰めた。
優しく見守るような彼の笑みに、柚春も喉まで出かかった願いを寸前で言葉を飲み込む。
「明日、かぁ……」
それはまだ遠いようで、手を伸ばせばすぐそこにあるような気もした。
今だって気持ちは変わらないし、この手を離したくない。これからもずっと歩いていきたいと思っている。
でもそれは、生徒じゃなくなった未来に繋がる話だからこそ、願うのは今じゃない。
２人の間に流れる、言葉にならない確かな想い。
春の渓谷の勢いでさえ、流すことはできなかった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2025年07月11日
- 参加申し込みの期限
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- 2025年07月18日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2025年07月18日 11時00分
