１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。｜リアクション

１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。

◆No.7：氷の世界で過酷なサバイバルをして瀕死になっている場合
　命を埋もれさせるような吹雪の中、佐藤英二は傍らの野々ののこへ必死に呼びかける。
「ののこさん、しっかり！　きっともうすぐだよ！」
「…………」
　ののこからの返事はない。口を動かす体力すら、残っていないのかもしれない。
　だが、彼女の足はまだ動いている。繋いだ手は、冷え切ってもなおしっかりと英二の手を握っている。彼女はまだ、生きることを諦めていないのだ！
　だから英二も、諦めることなく歩き続けることができる。
　そんな二人に応えるかのように、吹雪の向こうに一枚の扉が姿を現す。
「ののこさん、シェルターだ！」
　残された力を振り絞って扉まで辿り着いた二人は、ほとんど倒れ込むようにしてシェルターの中へと転がり込んだ。
　世界にまだ『春』という言葉が存在していた頃のような温もりが、二人を包み込む。
　暖かい。このシェルターは、まだ生きている！
　ここでなら、ののこに暖と休息を取らせることができる。まずは身体を温めなければ！
　彼女が少しでも早く体温を取り戻せるよう、さすったり身体を動かすサポートをしてあげたりを繰り返す。
　そのうちに、彼女の指先にじわじわと体温が戻ってきた。
　冷え切って、朦朧としていた意識も戻って来たのだろうか。まだ少しぼんやりとした様子ではあるものの、ゆっくりと辺りを見回して、ののこが呟いた。
「英二、くん？　ここ……」
「シェルターだよ、ののこさん。ここなら安全だから、まずはしっかりと身体を休めよう」
「うん……」
　ののこがゆっくりとうなずいた瞬間、彼女のお腹が鳴った。防寒具越しでもわかるくらいにはっきりと。
　ぼんやりと、けれど気恥ずかしそうにお腹を押さえるののこの様子に、英二はくすっと笑っていた。
「ご飯にしようか」
　お腹が空くということは、まだ生きている、生きたいと願っていることの証だ。

　――保存食を食べ終える頃には、ののこはすっかり元気を取り戻していた。
　英二の方も多少お腹に物を詰め込んで、今後のための体力を確保。それから真剣な顔つきになって、まっすぐにののこを見つめた。
「これからのことについて、相談しておきたいんだ。いいかな？」
「うん。大事なことだもんね」
　ののこもまた、真面目な表情をしていた。これなら大丈夫そうだと、英二は話を切り出す。
「このシェルターをベースに周囲を探索して、サバイバルを続ける。それが今考えられる、最良の手だと思うんだ。どうかな？」
「私もそう思う。ここなら寒さもしのげるし、見つけた物資を蓄えられるし！」
　でも、と。ののこが扉の方へと目を向ける。
「まだしばらくはやみそうにないよね、吹雪。待ってる間に、先にシェルターの中を確かめた方がいいかな？」
「確かに……！　設備に物資に、暖房の維持の仕方に……確かめておかなきゃいけないことは、いくらでもあるもんね」
　シェルターを見つけられたからといって、それで万事安泰というわけにはいかない。
　どうすれば生き延びることができるか、考えなければならないこと、しなければならないことはいくつもあるのだ。
　もしも英二が独りだったら、その事実にとっくに折れてしまっていたかもしれない。
（……でも）
　英二はそっと、ののこの手を取った。すっかり温かくなったその手を、包むように握る。
「ののこさんと僕の二人でなら、例えどんなに過酷な状況でも、未来への希望を持って生き抜いていける気がするよ！」
「うん！　英二くんと二人でなら、きっと大丈夫だよ！」
　ののこが浮かべた笑顔に、英二は胸が熱くなるのを感じていた。