１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。｜リアクション

１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。

◆No.13：二重の意味でお世話になっている相手だった場合
　締切ギリギリで原稿を提出したばかりの響タルトは、朝食を摂ろうと早朝の商店街を歩いていた。
　春の朝の柔らかな日差しが、徹夜明けのしょぼついた目に突き刺さる。
　なるべく日陰を選んで歩いていると、道の向こうから、大きなあくびをかみ殺した人影が。
　あくびする声につられて、タルトはなんとなしにその人影へ目を向ける。
　途端、ピタッとその足が止まり――
「ののこちゃん！？」
　思わずの大きな声に、人影も驚いた様子で足を止める。
　振り向いたその顔は、頭のてっぺんでちょこんと跳ねるその髪は、間違いない――野々ののこだ！
　思いがけない再会に、タルトの声とポニテが弾む。
「僕、覚えてる？　桜花寮で一緒だったタルトだよ！」
　次の瞬間、「わっ」とののこも声を弾ませていた。
「タルトちゃん！？　嘘、こんなところで会うなんて！？」
「ほんとだよ～！　懐かしいな～、元気だった？」
「元気元気！　タルトちゃんは？」
「僕も元気だよ～。そうだ、朝ごはん食べた？」
「ううん、さっき夜勤明けたところでさ」
「よかったら一緒に食べない？　せっかくだしさ！」
「うん！」
　そういう次第で、モーニングを一緒することになった。

　商店街のとあるカフェ、その奥の二人掛け席。
　バター染み染みのトーストをひと口かじったタルトは、何の気なしにののこへ尋ねる。
「夜勤明けって言ってたけど、お仕事何してるの？」
「PBWの運営だよ」
「えっ、同業……っていうか運営さん！？」
「うん！　タイトルはこれね！」
　ののこが差し出したスマホに表示されているのは、タルトもプレイヤー兼クリエイターとしてお世話になっているPBWだ。
「わっ、いつもお世話になってます！」
　思わず頭を下げるタルトだった。
　同業というだけでも驚きなのに、まさか自分が二重の意味でお世話になっているゲームの運営だなんて！
（それにプレイヤーさんならともかく、ののこちゃんにゲームの運営ができるなんて……優秀なスタッフさんがついてるのかな？）
　けれどそこで、タルトは「あれ？」と顔を上げる。　
「ののこちゃんの所のって、この前完結したよね？」
　そう、メインストーリーは先日完結してしまったのだ。一応、今も運営自体は継続しているのだが……。
　するとののこは胸を張り、にっこりと笑った。
「そう。だから新作の準備のために、バイトで開発資金集めてるの。も～２４時間フル稼働だよ！」
「そっか、新作の準備……僕も楽しみにしてたんだ。またよろしくね」
　応援の笑みを浮かべながら、けれどタルトはきゅっと胸が締め付けられるような心地になっていた。
（それにしても、２４時間バイトしなきゃならないほど経営が苦しいなんて）
　どうして、そこまでして。胸に浮かんだその問いを、聞くも野暮だとそっと沈める。
　そこまでする理由なんて、ひとつしかない。
（楽しいもんね、この仕事）
　運営とクリエイター。立場は違えど、PBWという仕事の楽しさは、タルトもよく知っていた。
　プレイヤーの皆が、楽しいと感じてくれた時の喜びを。
　それからしばらくPBWトークで盛り上がった後、タルトはふと思い出したあることを口にする。
「そうだ、高校時代ののこちゃんと仲良かった男子が居たよね？　あの彼はどうしてるの？　AとかBとか、そんな名前だったような……」
「えっ？」
　急な話題に一瞬きょとんとしたののこだったが、誰のことを言っているのか気づいたのだろう。
　えへっ、と。はにかむような笑みを浮かべた。
　そんな彼女に、タルトはにへっと笑みを返す。答えは、その笑顔で十分だったから。

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あとがき

担当マスター：風雅宿
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あとがきでもハローワールド、風雅です。
色々な世界がありましたが、今回で言えば皆さん地に足のついた……元のらっかみ！寄りの世界を選ばれた方が多かったようですね。
１３年後を覗き見るという点で考えてみると、そうなるのも納得かもしれません。
ののこの、そしてより皆さんの１３年後の姿、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

それでは。

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