１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。｜リアクション

１３年目の１３世界の１３人のののののこと、あなた。

◆No.13：次回作のためにオールタイムアルバイターをしている場合
　寝子島某所、撮影スタジオ。
「いいね！　このままもう何枚かいってみようか！」
　カメラマンの声に続いてシャッター音が響き、フラッシュが瞬く。
　その被写体である月原想花は、慣れた様子でシャッター音とフラッシュを浴びていた。
　今日の撮影は、有名ファッションブランドのオンラインカタログ用。夏の新作の紹介らしい。
　それにしても、と想花は思う。
（ぼくみたいな陰キャ、売れやしないんだし、すぐにフェードアウトすると思ってたんだけどな）
　それが実際は、１３年が経った今でも、こうしてモデルを続けている。
　しかもカリスマ人気モデルだというのだから、誰よりも何よりも、想花自身が驚くばかりだ。
（夢はモデルじゃなくて、作家だったんだけど）
　内心でひとりごちるものの、そちらの夢もしっかり成就していた。
　この間も、担当編集からとある文学賞の候補になったと連絡があったばかりだ。
　考えもしなかったモデルの道も、本来の夢だった作家の道も、どちらもそれなりに――実際はそれなりどころではなく――成功して、評価を得ている。
　それがカリスマモデル「ソフィ」にして人気作家「想花」、月原想花の現在だった。
（未来のぼくはこんな風だよ、って。昔のぼくに話しても、信じてもらえないだろうな）
　元々の夢だった作家はともかく、モデルの方は「大丈夫？　騙されてない？」と心配されてしまいそうだ。
　実際、壮大なドッキリではと疑ったこともあったし。
　そんな取り留めのないことを考えていると、衣裳の準備で忙しなく動きまわっているスタッフの姿が目に入った。
　あれ、と。微かな驚きの声が、口の中で溶けて消える。
　今のは確かに、野々ののこだ。

　そして迎えた、撮影の合間の休憩時間。
　想花は、飲み物を持ってきてくれたののこを掴まえて、休憩スペースで話をしていた。なにやら周りが気を遣ってくれたのか、周囲には他に誰も居ない。
　天然水のボトルを手の中でもてあそびながら、想花は言った。
「ののこさんって、カメラマンとか興味あったの？　ちょっと意外っていうか」
「えーっとね。今、バイトを色々掛け持ちしてるところなんだ」
「……貯金？」
「貯金って言うか、資金調達？」
「どういうこと？　お店でも開くの？」
「実は、高校時代をモチーフにしたPBWを運営してたんだけどね。ちょっと前に完結したから、次回作の準備してるんだ」
　なるほど、開発資金調達のためということか。
　大変そうだなと思う想花の胸に、微かな懐かしさが同時に去来する。
「PBWかぁ。ぼくも高校生の頃はプレイしてたんだよね。仕事が忙しくなってプレイしなくなったけど」
「まあ、お仕事忙しくなるとねー。そういう人は、私のところでもよく居たね。あるあるってやつ？」
「うん……。一時はマスターもやろうと思ったんだけど、そっちは結局やらずじまいだったな」
「そうなんだ？　じゃあ次回作が始まったら、マスター登録だけでもしてみない？　歓迎するよ！」
　ののこの言葉に、想花は目を瞬かせた。
　答える前に、「でも、お仕事忙しいならやっぱダメかなぁ」なんて勝手に落ち込んでいる彼女の姿に、ふっと小さく笑みをこぼす。
「ありがと。……考えてみるよ。約束はできないけど」
　タイミングを見計らったかのように、撮影再開を知らせる声が聞えてくる。
　ののこと別れてスタジオへと向かいながら、想花はふと思う。
（がんばろ、この後も）
　がんばっているののこと、話をしたからだろうか。
　少し、やる気が出てきたような気がする。

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