フェアリーランド・バレー開拓記｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記

【妖精の実り】

　フェアリーランド・バレーには寝子島にない、特有のお野菜や果物もあるようです。
「わ……ヘンな形のニンジン！　なんか人間みたい？」
「こっちのナスはふたまただねえ。ははは、面白いなあ」
　ここはアナグマ食堂の裏手にある、野外用の簡易キッチン。開拓者が自由に利用することができます。
　柚春とワットは多様な食材たちを手に取り、そのひとつひとつにぽわわん、笑顔をこぼします。もちろん香りも、この谷にしかないものばかりです。
「学びが多くて、楽しいね。ふふ、ここではワットも先生じゃなくて、生徒だね？」
「そうだねえ。新鮮だよ」
　植物に造詣が深い柚春がそれを生業とし、ワットがそれをサポートするという形が、谷でのふたりのスタイルとなりそうです。まずは雑貨屋のマチコさんに、例のキノコを使った消臭剤や防虫剤を収めるのは、定期的な収入となるでしょう。なんともありがたいことです。
　そんでもって目の前のみずみずしい野菜たち、ジューシーな果物たちは、今日のふたりのごはんとなります。
「さて、ワットはなに食べたい？」
「う～ん、そうだなあ。柚春はどうだい」
「僕は、ワットがおいしく食べてくれる姿を見るのが好きだから。ワットの好みに合わせるよ。あ！　それとも……」
「うん？」
　柚春はしなを作り、にんまり上目づかい。
「食べたいのは、僕かな？　なーんて」
「はは。それはまた後でねえ。それじゃ、カレーなんてどう？　ちょっとスパイシーなやつをさ」
「うん、いいね！」
　イチャイチャもそつなくはさみつつ、レッツクッキング！　今日は野菜カレーを作り、果物はデザートにいただくことにしました。
　とんとんとん、踊る包丁。くつくつくつと沸騰し、ハミングするお鍋。柚春は思わずステップし、ワットも軽やかにくるり、回ります。
「ふん、ふん、ふふん♪　そういえばワット、マチコさんになにか品物を収めるとしても、消臭剤だけじゃ物足りないよね。やっぱり僕らしく、素敵な香りをみんなに届けたいなって思うんだけど」
「ここは香料になりそうな天然素材も多いようだから、いろいろ考えられるよねえ。たとえば香水、キャンドルやオイル。シャンプーとか……」
「ボディローションなんてのもあり？　あ、動物さんたちには必要ないかな……」
「そのへんも、リサーチが必要だねえ。少しずつ進めていこうよ」
　と、おしゃべりしながらお料理していたら、
「おお、こりゃいい香りだ！　きみたちも料理上手なんだなあ」
「あ、オリバー店長！」
　ふんわりただようカレーの香りに誘われて、思わずやってきた食堂の店主、オリバーさんにも特製カレーをおすそわけ。
　ふたりきりのイチャイチャもいいけれど、街の住人たちともこうして交流を深めていきたい……それが、移住を決めた柚春の願いです。その第一歩を踏みしめたところで、柚春は満足げに微笑み、ワットの口へ自分のスプーンを運びます。人前でも、あ～ん♪　は忘れない仲よしカップルでありました。