フェアリーランド・バレー開拓記｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記

【気になっちゃいます】

　ふんわり、ふわあ。こじゃれた洋食店といった様相の店内へ広がる、香ばしいかおり。タルトの瞳もきらっきらに輝きます。
「うわあ、美味しそ～！」
「うん、自慢の一品なんだ。さあ、冷めないうちに召し上がれ」
「いただきまーっす♪」
　でっかいエビフライが三本も！　タルトの注文した大エビフライ定食は、クマのオリバーさんが営むこの食堂の看板メニューなのだそう。
　さっそくエビをかぷりとひと口。さっくさくのぷりっぷりでお味も絶妙、これは絶品！　ちなみに今日のところはタダでごちそうしてくれるとのこと。この街で生業を得て、お金を稼げるようになったら払ってくれたらいいよ、とオリバー店長は言ってくれました。
「美味し～！　さすがは看板メニューですね～。このエビはどこで獲ってきたものなんですか？」
「星くずビーチで釣り小屋をやってるネイサンが、毎朝釣ってきてくれるんだよ。興味があったら行ってみるといいよ、素晴らしいところだから」
　興味深い情報にうなずきつつ、タルタルソースをたっぷりつけてエビをぱくり。もぐもぐ。
「ところで……気になることがたくさんあって。街のみんなに聞いてるんだ。店長さんにも聞いていい？」
「うん？　僕に分かることなら」
　オリバー店長は大きな身体をして、素材を活かした豪快料理も細やかで緻密な料理もこなす器用な料理人です。肩を小さく縮めてエビを処理しながらも、そう言いました。
　タルトには、このフェアリーランド・バレーについて、気になることが山ほどあるのです。そう窓の向こうにそびえる、フローブロー・マウンテンのように。
「カノジョとかカレシとかいますか！」
「……えっ」
「獣人さんの恋模様に興味があって♪」
　店長は途端、こぐまのように目をきょろきょろとさせて、小さくひと言。いないよ、とぽつり言いました。
　お腹が満たされたら、ごちそうさま！　と食堂を飛び出して、向かう先はトキノネ資料館。
「この街の獣人たちは、どこから来たんですか？」
　ふさふさしっぽのマロン先生、メガネをくいっとやって、
「線路の続く先から、列車に乗って。これからも新しい動物たちが来るでしょうし、いつかあなたも行ってみるといいわ」
「へえ、獣人たちの暮らすところがほかにもあるんだ！　興味あるなー」
　たくさんの動物たちがひしめきあう大都会を想像したら、なんだか楽しくなってしまいます。
「その街では……肉食と草食の違いはないんですか？　トラブルとか、争いとか、無かったのかな？」
「昔はあったようだけれど。でもずっとずっと大昔のことよ。もう覚えてるひともいないくらいのね」
　あなたってヘンなことを気にするのね、とくすくす笑われてしまいました。ヘンなことかな？　と人間のタルトなどは思ってしまいますけれど、この街の動物たちには思いもよらない疑問であったのかもしれません。
　そんでもって、最後に。
「マロン先生は、カレシとかカノジョとかいますか！？」
　にっこり。答えは、ヒミツ。だそうです。