フェアリーランド・バレー開拓記｜リアクション

フェアリーランド・バレー開拓記

【薫風】

　早朝のサニーサイドアップ農場。
「やっ。邪魔するわよ」
「ええ。あちらの区画を使うのだったわね。エミリーさんから聞いているわ」
　熱心にクワを振るう葉月にひと言告げてから、ティオレは自分に割り当てられた畑へ向かいます。軽快に歩むたび背負った道具たちがしゃがしゃとやかましく騒ぎ、青空の下に広がる手つかずの畑を自分の色に染めてゆくのだと思うと、荒事に長けたトレジャーハンターの胸もなんだか躍ります。
　ティオレとしましては、このフェアリーランド・バレーでもお宝を追い求めるのをやめるつもりはありません。けれど今のところ、それがじゅうぶんな収入となることはなさそうです。フローブロー・マウンテンなどには貴重な遺物の類が埋もれていそうな気配ながら、調査にも発掘にも時間がかかるでしょう。
　そこでティオレが始めたのがいわゆるひとつの、『何でも屋』というやつなのでした。
「その依頼一発目がまさか、畑仕事だとは思わなかったけどねえ」
　ひとまずはゴロゴロと転がっている岩やら生え伸び放題の雑草やらを除き、土を耕すところまで。気が向いたらその先もよろしく、と管理人のネコのエミリーさんは言っていましたけれど、ティオレ次第です。
　そんなわけでまずはクワを手に取り、
「よっ、と！」
　ぶおんと振り下ろします。がこん！　さっそくごろんとした岩にぶち当たり、手がびりびりとしびれました。ティオレは顔をしかめつつクワの刃先を岩の下へ差し込み、てこの原理で掘り出します。それをよいしょっと持ち上げたら畑の端っこへ運んで、ぽいっ。石は別の開拓者が石材として使用するそうです。
　クワを振って石を除き、斧をぶおんとやって切り株をたたき割り、もさもさと生えている雑草をひとつひとつむしって……太陽はいつのまにやら直上でぎらつき、ティオレの額には大粒の汗。頬は泥で汚れておりました。
　四肢に疲れも感じるけれど、手が止まることはありません。幾度もクワや斧を振るって、まっさらキレイになるまで雑草を引っこ抜いて、汗だくのびっしょりになりながらも、疲労はむしろ心地よく、ティオレの気力は増すばかり。

　それに、目標もありました。
「何でも屋が軌道に乗って来たら、まずは家でも建てようか。谷のいいとこ、街の連中と着かず離れずの距離感で、いい風の吹く場所がいいね。そうして拠点を作ったら、いよいよお宝さがし。どんな大物が見つかるか……ふふっ、楽しみね」
　高まる期待、吹き抜けてゆく風に背中を押されるまま、ティオレのクワは回転し、疲れ果てるまで止まることはありませんでした。

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