甘く香る寝子島｜リアクション

甘く香る寝子島

◆コーヒーの持論

　ある日の朝。
　朝鳥さゆるは大学へ行くために身支度を整えていた。同棲している姫木じゅんに目を向けると、彼女はまだ夢の世界だ。さゆるはそんな彼女を横目に家を出た。いつものように寝子電に乗り込むと本土へ向けて列車が走り出した。

（大学生活も落ち着いてきたし、キャバ嬢としての勤務にも慣れてきたわね）

　さゆるはキャバクラ『プロムナード』でキャバ嬢として働いている。学業との両立も最初は大変だったが、サイクルが確立するとだいぶ楽になった。今日の講義のことをぼんやり考えながら、どんどん近づく本土を眺める。列車を下りてからキャンパスに到着し、午前の講義を終える。このあとは昼食を取り午後の講義に向かうはずだったが、休講の連絡が入った。

（今日はどのみち出勤だし、帰ろう）

　さゆるは気持ちを切り替えてキャンパスを後にした。行きと同じように寝子電で寝子島に戻ると、マンションへまっすぐ向かった。部屋を開けるとじゅんが目を覚ましていて出勤の準備を始めていた。彼女もさゆると同じキャバクラで働いている。

「あれ、さゆるもう帰ってきたの？」
「午後が休講になっちゃって」
　
　そんな話をしながら、さゆるも準備を整えると一緒に部屋を出た。シーサイドタウンにある店舗に向かう途中、『シュガー＆ビター』という企画が行われていることを知る。まだ時間に余裕があるので適当な店に入ってみることにした。
　２人ともケーキセットでさゆるはチョコケーキ、じゅんはチーズケーキで、ドリンクはそろってコーヒーを注文した。
　
「あたし、スイーツ食べるときはブラックコーヒーにしてるの」
「なんで？」
「甘いの食べながらコーヒーに砂糖を入れるとかベタ甘すぎて話にならない」
「そういうものかな」
「それにブラックのほうが甘さが際立つし」

　じゅんの持論を聞いているうちにケーキセットが運ばれてきた。今日は同伴ではないので２人だけでのんびりできる。適当に選んだ店だったが、ケーキがなかなか美味しい。そして合わせたコーヒーがさらに美味しい。

「これは当たりだね」
「店の皆にもお土産買っていこうか」
「そうしよう」

　適当なおしゃべりを満喫した後、お土産のケーキを手に店を後にした。

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