甘く香る寝子島｜リアクション

甘く香る寝子島

◆甘酸っぱい時間

　週刊かぎしっぽの記者であるねこねこが『あの人は今！？』と題した取材を敢行した日のこと。
　大学生になった八神修は普段は東京で過ごしており、このときちょうど来島していた。それに合わせて七夜あおいも帰ってきていた。彼女も進学を機に寝子島を離れ、九州の福祉系専門学校で勉強に励んでいる。ねこねこだけでなく、野々ののこなど寝子島でともに過ごした面々との出会いを喜んだ。
　それから色々なできごとが重なり、最後はひとしきり海ではしゃいだあと、再会を約束してから解散した。

　修とあおいはそれからシーサイドタウンで休憩しようと移動した。ちょうど『シュガー＆ビター』というイベントをやっているようで参加店のテラス席に立ち寄った。通常メニューだけでなく、このイベントのために企画されたものもある。

「どれも美味しそうだな」

　ひとまず基本のケーキセットで修はコーヒー、あおいはオレンジジュースにした。さらに店の看板スイーツであるクレープやイベント名を冠したパフェなどもあわせて注文した。それらが運ばれてくると２人でシェアして味わう。

「甘くて美味いな」
「たくさん注文したね」
「なんか甘いものが食べたい気分でさ」

　砂浜で動いたから、少し疲れたのかもしれない。修の体力が低めというのもあるだろう。それでも甘いものを食べていると、少しずつ回復しているのを感じる。修は食べるのが一息ついたところで振り返るように語りだした。

「野々が元気そうでよかった」

　空に巨大な桜のような木が生えて、満開に咲いたあの日。
　修もあおいもそのときの出来事を覚えている。だからこそ修はののこが元気に過ごしていることが分かって安心した。

「それにしても青春をするって何をするんだろうな」
「分からないけど、ののこちゃんなら上手くいく気がするよ」
「確かに」

　山ほどあったスイーツも２人で食べているうちに減ってきた。最後の一口を食べ終えると、食後のコーヒーを味わう。

「それにしても修君、ののこちゃんの話ばかりじゃない？」
「そうか？」
「気持ちはわかるけど」

　彼女はいじけたようにジュースをストローで飲んでいる。修からすれば、そんなやきもちすらも愛おしい。
　
「俺が見てるのはあおいだけだよ」

　そう言って甘酸っぱいフランボワーズマカロンをあおいの口元へ差し出す。あおいは照れくさく笑いながら口で受け取った。修の言葉は本当だ。ただただ、あおいが可愛くて仕方がない。

「ね、次の連休。どこか行かない？」

　マカロンのように甘酸っぱい会話。彼はこの時間が嬉しくて、幸せだった。

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