甘く香る寝子島｜リアクション

甘く香る寝子島

◆食べ歩きの醍醐味

　その日寝子島では『甘いものを楽しもう』という趣旨のもと、各地でイベントが行われていた。歩くのも食べるのも好きな倉前七瀬はわくわくしながら散策していた。

「『食べ歩き日和』とは、なんとも心惹かれる言葉ですね」

　シーサイドタウンや星ヶ丘でも、それぞれの特色を活かしたイベントを行っている。そのなかでも旧市街のタイトルがとても魅力的に思えた。心を弾ませながら参道商店街へと足を運ぶ。レトロな雰囲気の街並みに、イベント告知のポスターやのぼりがいくつか見られる。

（このイベント用に作られた商品もあるようなので巡るのが楽しみです）

　そう思って踏み出した矢先、ふと視線の向こうに見覚えのある背中が見えた。

（おや、あそこにいるのはもしかして……）

　近づくにつれて予想が確信に変わった。ウォルター・Bだ。

「ウォルターさん、奇遇ですねぇ」
「おお、七瀬か」

　会話を進めるうちに彼も食べ歩きに来たようなので、一緒にまわることを提案した。１人よりも２人のほうが楽しそう、とウォルターは快諾した。特に食べたいものがあるわけではないので、商店街を巡って気になったものを買うことにした。旧市街は昔ながらの店が多く、みたらし団子などの定番をお手軽に楽しむことができる。
　そんななかで、見たことのない商品が目に飛び込んできた。店に近づくと苺と餅が交互に串に刺さっており『いちご大福串』と命名されていた。

（見た目もいいし、美味しそう。まずはこれにしようかな）

　ウォルターにも尋ねると、彼も興味を持ったようなので1本ずつ購入した。柔らかい食感の餅にほんのり甘い味付けがされていて、そこにいちごの酸味が加わってなかなか美味しい。

「初めての感触で、なかなかうまいです」
「見た目だけじゃなくきちんと美味しいのがいいねえ」

　いちご大福串を食べ終え、しばらく商店街を歩く。次に見つけたのは『たい焼き』ならぬ『ねこ焼き』。見た目が猫になったこと以外に違いは無いのに、見た目の印象でけっこう変わる。七瀬は和の気分なので黒あん、ウォルターはカスタードを注文。目の前でできあがっていく過程を眺めるのは楽しい。
　食べてみるとほどよい甘さでおいしい。なにより猫の形が可愛い。

「食べるのちょっと勿体ない気もしますね」
「そうだねえ」

　こういう見た目が可愛らしいものは、どうしてもそういう気持ちが出てしまう。ねこ焼きも食べ終わったら、サービスでもらったお茶を片手にベンチで一休み。

「……食べ終わりましたが、歩いているせいかまだまだいける気がします。ウォルターさんもまだいけます？」
「まだまだいけるよ」
「では、このまま食べ尽くしちゃいましょう～」

　少し休憩を挟んでから２人は文字通り食べ歩きを満喫した。