甘く香る寝子島｜リアクション

甘く香る寝子島

◆甘いひととき

　綾辻綾花は早川珪先生とデートを楽しんでいた。書店をいくつも巡り、探していた本から掘り出し物まで様々な本を抱えている。ふと景色に目を向けると、シーサイドタウンでは『シュガー＆ビター』と称したスイーツイベントが行われていた。どうやら今日は寝子島の各所でこういった催しがあるらしい。だいぶ歩き回って腕も疲れてきたので、休憩もかねて立ち寄ってみる。

「キッチンカーも出てるんですね」

　町全体が祭りのような雰囲気に包まれている。どの店も美味しそうなスイーツが並んでいて、とても悩ましい。

「イベント名から考えると、きっとビターなスイーツもあるんですよね」
「甘さの幅が広いのは色々選べて良さそうだ」

　散策を楽しみながら目に留まった喫茶店に足を運ぶ。入り口にイベントののぼりがあったので、参加している店舗なのだろう。案内された席に座るとメニューを眺める。

「珪さんは何にしますか？」
「ほどよく甘いものがいいかな」

　２人でメニューを眺めて何にするか相談する。綾花はチーズケーキと紅茶、珪先生はチョコケーキと珈琲にした。ほどなくして運ばれてきたチーズケーキには数種類のジャムが用意されていた。

「美味しいですね。これはブルーベリージャム？　カシスジャムも甘酸っぱくてチーズケーキに合いますね」

　色とりどりのジャムを前に、幸せそうな彼女。その様子に珪先生も顔がほころぶ。彼も自分のチョコケーキに手を伸ばすとほどよい甘さが口に広がり、それが珈琲に合う。

「珪さんのケーキはどうですか？」
「美味しいよ。一口食べるかい？」
「いいんですか？　いただきます」

　一口食べて見るとなかなか好みの味だった。彼と味覚が似ていることを改めて実感する。

（これから夕食を珪さんに部屋で作る予定ですけど、デザートを購入して帰るのもいいですね）

　２人でケーキの感想や書店巡りのことを話していると時間がすっと過ぎていく。帰り際に彼にデザート購入を提案し、ワインに合いそうなものを選んでもらった。

（私は未成年なので紅茶で乾杯です）

　店を出た２人は手をつなぎながら歩き出す。

「今日は何を食べたいですか？」

　デザートもあるから軽めのものがいいかな、なんて考えながら夕暮れの寝子島を歩いた。

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