甘く香る寝子島｜リアクション

甘く香る寝子島

◆金平糖の意味

　今日は『甘いものを楽しもう』という趣旨のもと、寝子島の各地でイベントが行われていた。稲積柚春とウォルター・Bは旧市街の『食べ歩き日和』とシーサイドタウンの『シュガー＆ビター』を見て回り、気になるものを色々と買い込んでから彼女の家にやってきた。テーブルに並べてみると結構な量だ。

「ここまで甘いものが多いと、紅茶はノンフレーバーでさっぱりと……それとも甘いフレーバーでとことん？」

　どんな組み合わせが美味しくなるか考えながら飲み物を選ぶのは楽しい。

「すぐ準備しちゃうからちょっと待ってて」
「わかった」

　たくさん歩いてお腹も空いているが、口直しにチーズやプレッツェルも用意する。ちらりと彼のほうを見ると、並べられたスイーツを宝石のように眺めている。目の輝かせ方が少年のようで、思わず笑みがこぼれてしまう。テーブルに紅茶なども並べ終え、彼女も腰を下ろすと準備完了。忘れないうちにворをスイーツの近くに並べて写真も撮った。

「さあ、ワットはどれから行く？」
「迷うねえ」

　迷っているのは柚春も同じだった。季節のフルーツタルトもいいし、和菓子だって食べるのが勿体ないような形をしている。しかし迷うあまり、最初の１つに手を付けられないまま時間だけが過ぎていく。そこで彼女は、可愛らしい動物の落雁とともに敷き詰められた金平糖を一粒つまんでウォルターの口元へ運ぶ。

「考えてる時間がもったいないから食べちゃおう！」

　彼は照れ笑いを浮かべ、小さく頷いた。タルトはほどよい甘みのなかにフルーツの酸味が効いて美味しい。和菓子もデザインだけでなく味や食感もしっかり作りこまれている。

「どれもおいしいねえ」

　ウォルターも満足そうだ。その表情に柚春も嬉しいと思いつつ、金平糖を眺める。

（……ワットは、あんまりこういう意味とか知らないよね？）

　どれも間違いなく美味しかった。それでも最初に口にするのは良い言葉を持つものが良かった。

「どうかしたかい？」
「なんでもないよ」

　柚春は小さく笑った。いま過ごしているこの時間を噛みしめるように。

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