ねこねこプリズンへようこそ！｜リアクション

ねこねこプリズンへようこそ！

　レディ・キャッツ

　人間にとっては些細でも猫にとっては犯罪ならぬ猫罪になる。
　朝鳥さゆると姫木じゅんもしっかりその災禍に巻き込まれていた。
「じゅん……あたしたち、ゆうべは早めに床についたわね？」
「そうね、朝早い用事があったから」
「いっしょにベッドに入って、わりとすぐに寝ついたわよね？」
「そうだと思うわ」
「なのにどうして……ふたりとも囚人服を着て猫の看守にぺしぺしされているの……？」
　聞けば、ここはねこねこ刑務所で。さゆるは『なでなでを途中でやめた罪』、じゅんは『そこがいいのにどかした罪』という猫罪に問われているそうだ。
「たしかに、大学のキャンパスのベンチで次の授業を待っていたときに、すり寄ってきた猫がいたわ。すこしなでなでしたけれどすぐに授業の時間になったから離れた……」
「さゆるはそれね。でもあたしは？　心当たりがないのだけれど」
「あれじゃない？　プロムナードのバックヤードに迷い込んだ猫。じゅんの膝にしばらく乗っていたけど、指名が入ってどかしたのを見たわ」
「ああ、そんなこともあったわね。……って、そんなのが罪！？」
　呆れちゃうと肩を竦めたそのとき、べつの猫看守がやってきてふたりに何かを手渡した。
「なにこれ……って、猫のコスプレ衣装？」
「そうにゃ！　ふたりには『猫コスプレの刑』を言い渡すにゃっ！」

　どうせ夢かもしれないし拒否してエネルギーを使うのもバカバカしい。
　それに猫コスプレくらいならしてもいいか、と、夜の蝶たる二人のレディはさっさと着替えた。
「きゃあ、似合う！　さゆるの衣装はセクシーね」
　さゆるは黒猫。背中が大きく開いててボディラインもはっきりわかる黒レザーのスーツに猫耳と猫しっぽがついている。
「じゅんは……可愛いわ」
　じゅんは白猫。ふだんゴスロリで黒がちなじゅんだが、清純派なふわふわフリルの白ワンピースで猫耳黒髪ツインテールだと、十どころか十五は幼く見える。
「それで、あたしたち何をすればいいの？　男でももてなせばいいのかしら？」
　さゆるが刺すような視線を看守に向けると、看守はねこじゃらしでぺしぺしして『指導』してきた。
「こらーっ！　何を仕事しようとしてるかにゃっ！　猫は猫らしく怠惰にすごすにゃ！　語尾も猫っぽく！」
「猫っぽく？」
　さゆるがきょとんとしていると、じゅんがさっそく順応して猫語尾を使い始める。
「了解ですにゃ！　ほら、さゆるも」
「え、にゃ、にゃあ……ちょっと待って。これ、あたしのキャラじゃないわ……」
　戸惑っていると、ねこねこ看守がまたぴしぴししてくる。それでもダウナーで硬質な美女と言われて久しいさゆるには、甘ったるいにゃん語尾はキツすぎた。
「……これで、いいのかにゃ？　……」
　にゃ、なんて言ったことがなくて、さゆるは思わず口元を押さえる。
　……とてつもなく、恥ずかしい……！
　が、じゅんには異様に受けた。
「さ、さゆるぅ～～っ！　にゃん語可愛い～っ！　にゃんにゃ～ん、もっと言ってにゃん♪」
　じゅんに背中を、つつうっ、と爪の先でなぞられると、ぞくぞくとした快感に襲われる。
「ぅう……にゃん……」
「はううぅぅ！　クールなくせにウブな黒猫さゆる、いいっ！」
　ねこねこ看守も大きく頷いている！

　こうして。
　さゆるは流されるままじゅんに可愛がられて、怠惰な猫となって一日を過ごした。
「にゃん、にゃん、にゃあぁぁ……ぁぁんっ！」