ねこねこプリズンへようこそ！｜リアクション

ねこねこプリズンへようこそ！

　ぼくはねこねこプリズンにいた

　月原想花はぼんやりと辺りを見回した。
　コンクリート打ちっぱなしの部屋で、出入り口には鉄格子が嵌っている。
　そして自分はシマシマの囚人服だ。
　堅苦しい看守帽を被ったねこの看守がやってきて、鉄格子扉の鍵を開けた。
「あ、ねこねこ記者」

「違うにゃっ！　吾輩はねこねこ看守にゃっ！」

「あ、そうなの？　そのブチ、そのカギ尻尾、そのまったりとしたフォルム、どこをとっても明らかにねこねこ記者だけど……」
「ごちゃごちゃ言ってないで、出るにゃ！」
　想花はまだぼんやりしたまま牢を出ると、看守に連れられてどこぞへと歩き始めた。
　そこにいたのは――猫、猫、猫。
　あと、猫っぽい恰好をした人とか、猫看守にぺしぺしされている人とか……。
「ここは……猫の刑務所？」
「ねこねこプリズンへようこそにゃ！」
　猫の看守がぴしゃりとムチのようにねこじゃらしを振って答える。
　想花はよく動かない頭を一生懸命働かせる。
　猫が看守として、人間の上に君臨している刑務所とは……一体全体、何が起きているのか？
「貴様は猫罪を犯したのにゃ！」
「猫罪……」
「そうにゃ！　貴様の罪は……『猫が気に食わないおやつを出した罪』にゃ！」
　そう言われて、想花は数日前の出来事をうすぼんやりと思い出した。
「あ……数日前に猫鳴館にきたサビ猫に猫用魚肉ソーセージをあげたっけ……その子、お腹ペコペコなくせにコレジャナイって感じで不満そうに鼻を鳴らしてた」
「ニャッにゃーんッ！　その猫はカリカリが良かったのにゃッ！」
「贅沢な……貧乏暇なしの猫鳴館だよ？　人だって大したもの食べてないのに……。猫用の食料品がないか探したけど、たまたまソーセージしかなかったんだもの。それが罪になるなんて一体どういうこと？」
「シャーラップ！　貴様に課せられた刑は――『キャットタワー上り下り１００回の刑』にゃっ！」
　想花は、ががーん、と慄いた。
　猫に魚肉ソーセージをあげるという親切をしたのにも関わらず罪に問われるその不条理さに。
　そして、その刑の重さにも。
　猫の看守に連れられてやってきた場所に聳えていたのは、まるで体育会系ＴＶ番組「ニャスケ」に出てきそうな構造物。天にまで届きそうな超巨大キャットタワーだったのである。

◇

　ねこねこプリズンの中には和の庭園があったり、昔ながらの古民家があったりもする。
　そんな一角、猫たちもまどろむ日当たりぽかぽかな縁側で、佐藤英二は文机に向かっていた。
　英二の周りには大量のハガキが、角をきちんと揃えて山になっている。

『ねこねこプリズン囚人番号 2157！
　年賀状に十二支の絵を描いて満足してるの罪にゃ！
　猫年がないにゃろがー！
　猫年を普及させるために一生を捧げる　の刑にゃ！』

　英二はそんな、みずからにまったく非のない罪で収監され、猫年を普及させるべく架空の猫年の年賀状をせっせと書いているのである。真面目である！
「よくわからない理由で収監されたちゃったよ。とりあえず穏便に過ごして模範囚を目指してみようかな？」
　墨と筆で、ねこ年おめでとう、と書いた数百枚目のハガキを前に、ふう、と疲労のため息をついたとき「英二くーん」と元気いっぱい呼ぶ声がした。隣の家との垣根を越えて、庭の飛び石を跳ねながらやって来たのは、囚人服の野々ののこである。
「野々さん！　野々さんもねこねこプリズンに来てたの？　いったい何の罪で……？」
「よくわかんないけど、私、大猫罪人なんだって！　だからいろんな刑を回ってるの！　さっき『縁側でお昼寝の刑』が終わったから、次は何しよーかなと思って」
　能天気なののこからちょっとばかり元気をもらって、英二は顔をほころばせた。
「野々さんは収監されても活力いっぱいだなぁ」
「まーね。英二くん、いっしょに刑罰めぐりしない？」
　なんという誘い方か。だが、英二は嬉しそうに立ち上がった。
「いいよ。ちょうど肩も凝ってきたところだし」
「だったら運動系がいいね！　レッツゴー！」

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