R&R Journey：密林のルーインズ＜前編＞｜リアクション

R&R Journey：密林のルーインズ＜前編＞

　魔女

　気づけば、白い霧に包まれていた。
　遠く鳥や獣の声がする。密林はまだ遠くないようだが、霧でほとんど見通せない。
　一同は、身を寄せ合うようにして固まり、あたりを見渡す。
「――グデ？」
　豪が姿の見えない青年の名を呼ぶと、どこからか歓喜の声が返ってきた。
「ああ！　間違いない、この遺跡だ！」
　次の瞬間。
　霧がまるで大きな手でかき分けられたかのように消え、台形ピラミッド型の石造遺跡が姿を現した。
　それは、白石の層と黒石の層が交互に鏡モチのように積まれている巨石建造物で、エジプトのピラミッドなどよりははるかに小さいが、それでも最下層の方形は一辺が30メートル以上ある。
　一同は、遺跡を見上げ、立ちすくむグデの背中があるのを見つけた。
　そして、彼が見上げる先をおなじように見上げる。
　遺跡のてっぺんに人がいる。
　長いローブを纏い、長い舌を出した奇怪な仮面を被って、腕を広げて立っているのは女だ。
　逃げ延びたレヤックが遺跡を駆けのぼり、そのまわりに纏わりついている……。
「ほほう。あやつが魔女ランダか？」
　イツトリは、愉快気に唇をなめる。
「なかなかの美人ではないか」
「え、美人？」朝衣は耳を疑った。「どちらかというと老婆じゃない？」
「いやいや、どうみても美女じゃろう？　ま、儂には敵わぬが」
　そんなイツトリと朝衣の話を聞いて、ラッセルはそう言えば、と思い出した。
「魔女ランダについて聞き込みしたとき、地元の人が言ってたんだ……魔女ランダは老婆の姿をしているが、黒魔術を志す者や陰の気に惹かれる者には若くて美しい女に見える、って」
　それを聞き、サキリがさもありなんと頷く。
「イツトリはアステカ呪術に精通しているからね」
「アステカ呪術と黒魔術は別ものじゃ」
「そうなのかい？　アステカ呪術といえばなかなかに凄惨だろう、頭蓋骨の塔だとか生贄だとか……」
「生贄……」
　そう繰り返したラッセルの声が上ずっていた。
「なあ。俺の見間違いならいいんだが……魔女の前にある石の寝台みたいなやつ……あそこに人、横たわってねえか？　なんか赤っぽい服の……」
　晴れゆく霧に目を凝らす。
　ああ、間違いない。
　あれは――あの赤いコートとお団子髪は……。
「梨香さんだ」
　豪が判じた次の瞬間、魔女は遺跡のふもとに集う一同の方を見た。

　――面白い『気』が森をうろちょろしていると思ったが……ふふ、ようこそ＜時のない村＞へ。

　その声は、鈴を転がすような可憐さと、割れ鐘のような不快さとが、不協和音となって重なり合っていた。

　――もてなしのひとつでもしてやりたいところだが、これから大事な儀式をするところでね……。

「儀式だと！？　梨香さんを生贄にはさせないぞ！」
　豪が叫ぶと、魔女はガラガラと笑った。

　――生贄？　いいや、違うさ……これは『理（ことわり）』、あるいは……『輪廻』。

「御託を聞く気はないよ。坂内さんを返してもらう」
　サキリが＜斬空赤刃＞で跳んでいた。
　魔女の前に瞬間移動で現れたと思った刹那にはもう、マチェットは薙ぎ払われており、あとに残った刃物の赤い軌跡だけが、一同からは辛うじて見えた。
　のけぞる魔女。
　石の寝台に寝かされていた梨香を抱え、皆の元へ戻ってくるサキリ。
　一拍遅れて、魔女の仮面が砕けて割れた。
「！　まさか！」
　息を呑んだのはグデだった。
　仮面の下から現れたのは、美しい顔立ちの黒い瞳に褐色の肌をした女性で――その面差しは、ああ！
「――母さん！！！」
　グデの悲痛な叫び声があたりに響き渡る。

　――おやまあ……邪魔をするのかい？　女をお返し。その女は、魔女の器だ。
　ああしかし、そっちの女でもいい。そっちでも、そっちでも……。

　魔女は、綾花、さゆる、朝衣を舐めるように見て、よじれた長い爪で順に指す。
「何をする気だ！　誰も渡さないぞ！」
　豪が女性陣を守るように前に出て腕を広げる。魔女はそれをみて、またガラガラと笑った。
　
　――魔女は『理』の一部……誰かが魔女にならねばならぬ。

「母さん！」
　グデが駆けだし、遺跡をよじ登ってゆく。
　だが、そんなグデをあざ笑うかのように、ふたたび濃い霧が現れて、魔女の姿は霧のなかに溶けて消えた。
「ああ、どこだ！　どこへ行ったんだ、母さん！　グデだよ！　アナタの息子、グデだよ！」
　てっぺんに登り切ったグデは必死に叫んで魔女の姿を探したが、呼び声はむなしく霧に飲まれるばかり――。

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R&R Journey：密林のルーインズ＜前編＞

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