春はピクニック☆｜リアクション

春はピクニック☆

「……新年度ピクニック、どこにする？」
　黒白滴に訊かれた月原想花は、少し考えて答えた。
「去年は湖畔だったから、今回は千年杉コースにしよう」

　そして当日。
（去年はへばってくたくたになったっけ）
　息を切らしつつも、想花は音をあげることなく千年杉の傍までやってきた。
（体力がついたのかな。滴さんと一緒だったからかもしれない）
　滴は興味のあるものを見つけると立ち止まってじっと観察するので、その間休憩できて助かった。
　
「千年杉って間近で見るとやはり巨大だよな……」
　ぼんやりと巨木を見つめていると、
「ねえ……虹色の温泉に行かない」
　滴は千年杉よりは虹色の温泉に興味があるようだ。
「そうだね」
　頷いて、想花は滴と共に美の泉へ向かった。

　聞いていた通り、泉のお湯は綺麗な虹色だった。
「これかあ。それにしてもなぜ泉の色が虹色なんだろう。なんだか不思議だよね」
「……」
　滴はリュックからスケッチブックを取り出し、一枚破って、それを泉に浸した。
「あ、虹色になった……」
　想花が虹のグラデーションに染まった紙を見て声を上げる。
「ぼくも一枚貰っていい？」
　滴に頼むと、頷いて一枚紙を渡してくれた。
「ありがとう」
　それを浸してみると、やはり同じように虹色に染まった紙が一枚できた。
「これを使っていろいろと何かができるかもしれない」
　想花はつぶやいた。
「……例えば？」
　滴が楽しそうに尋ねた。
「うーん、細かくちぎったりハサミで切って貼り絵を描いてみたり、あるいは紙細工を作ってみたりとか」
　そんなことを話しながら。
（これ、ロロにあげたら喜ぶだろうか）
　想花の頭には、今、この場にはいない縦ロールの髪の少女の顔がうかんでいた。
　親友──いや、もう一人の片想いの人……川上紗櫻都（ロロ）。
（ぼくは目の前の滴さんにも、今はこの場にいないロロにも惹かれている。はっきりと言えば恋をしている）
　想い寄せる相手として、それに戦友のような感覚もある滴。共に寄り添い乗り越えた彼女と歩むことには大きな安堵を感じる。
　一方交通事故に遭って、一生松葉杖なしでは歩けない身体になってしまったロロは、今も意識不明のまま入院している。

（でも……二人の人を一遍に恋してるなんて……もしそれを二人が知ったら、ぼくを軽蔑するのかな？）
「……どうかした？」　
　黙り込んだ想花を訝しんでかそう尋ねる滴に、
「……あ……お腹すいちゃった、お昼食べない？」
　と笑顔でごまかす想花だった。

このページにイラストを設定する