バレンタイン・アソート｜リアクション

バレンタイン・アソート

【メルティナイト】
　ねこぴょんの日から、最初のバレンタインの夕方。
　綾辻綾花は自宅で、早川珪の訪れをそわそわしながら待っていた。
「綺麗ですね。それにいい香り」
　プレゼント用にラッピングされたバラの花束は、珪への愛を込めて、彼女が事前に用意したものだ。
（喜んでもらえるといいな）
　彼女は微笑んで胸に呟く。
　珪と付き合い始めてからもうすぐ一年だ。彼への気持ちは、どんどん大きくなっている。

　やがて珪がやって来た。
「ハッピーバレンタイン、珪さん」
　綾花は笑顔で出迎える。
　外は雪が降っていたから、綾花はビーフシチューやキッシュなど、温かい料理を彼のために用意してあった。
　室内に入り、テーブルの上の料理を見て、珪は目を細める。
　綾花がそんな彼に椅子を勧めた。二人は、向かい合って食事を始める。
「美味しいな。それに、腹の底から温まる。寒い日には、最高のもてなしだ」
　料理に舌鼓を打ちながら、珪が言った。
「珪さんに喜んでもらえて、うれしいです」
　綾花はやわらかく微笑んで返した。

　夕食後。
　リビングに移動すると、綾花はテーブルの上に今日のために作ったチョコケーキを置き、バラの花束を珪に差し出す。
「珪さん、大好きです」
「綾花さん……。ありがとう、うれしいよ」
　一瞬目を見張った珪は、笑顔で花束を受け取った。香りをそっと嗅いでから、脇へ置くと口を開く。
「僕からも、プレゼントがあるんだ」
　そして、鞄から取り出した細長い包みを綾花に差し出した。
　軽く目を見張って、綾花はそれを受け取る。
「開けていいですか？」
「ああ」
　うなずく彼に、綾花は包みを開けた。上品なピンクの包装紙から出て来たのは、細長い箱。それを開けると、中には金のハートのトップがついたペンダントが収められていた。
「素敵……」
「気に入ったかい？」
　思わず呟く綾花に、珪が尋ねる。
「はい」
　うなずいて、綾花はさっそく付けてみようとする。それへ「僕がつけよう」と珪が彼女が持つペンダントを手に取った。後ろに回ってペンダントを付けてやり、珪は改めて彼女の正面に戻ると目を細める。
「よく似合ってる」
「……うれしいです。ありがとうございます」
　綾花は、彼の言葉と優しい視線にはにかみつつ、微笑んで返した。

　そのあと、綾花はチョコケーキを切り分ける。飲み物は、珪がワインで綾花はぶどうジュースだ。
　それぞれをグラスに注いで、乾杯する。
「これも美味しいな。綾花さんは、本当に料理が上手だ」
　チョコケーキを一口食べて、珪は感心したように言った。そしてつと、かぶりをふる。
「いや、それだけじゃないな。僕にとって、今日この日が特別だから、よけいに美味しく感じるんだ」
「珪さん……」
　綾花は彼の言葉に、思わず瞠目する。その目がひたと珪に向けられた。
　珪も彼女を見返す。二人の視線が、熱くからまり合った。
「珪さん、愛しています」
「僕もだ」
　言葉と共に、二人は抱き合う。
　珪は今夜、ここに泊まることになっていた。
（このまま、溶けちゃいそう……）
　綾花は珪の体から伝わる熱に、ふと思う。
　どちらからともなく、互いを抱く腕に力がこもる。
　外では変わらず雪が降り続いていたが、その冷たさが二人の間の熱を冷ますことは、なさそうだった――。

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