初詣に行きましょう｜リアクション

初詣に行きましょう

　森篠琳子はふと足を止めて、青空に向けて白い息を吐いた。猫ぴょんの日から二年後。秋沢覚と結婚して新姓は秋沢琳子となった。
（二年も経ったんだ）
　結婚して生活がかなり変わった。怒涛の二年間、あれからもっと経ったような気がする。何しろ……。
（信じられない、かも）
　琳子はふっくらし始めたお腹をさすった。今、お腹の中に二人の子供がいる。妊娠５カ月目で、出産予定は５月。いよいよお腹も膨らんできた。すでに子供の性別もわかるようになったけど、それはあえて聞かないことにしている。
　すると夫である秋沢覚に呼ばれた。慌てて歩き出す。
「どうしたん？」
「少しぼーっとしてて」
　すると手を繋がれた。
「え？」
　不意打ちで少しだけドキリとする。どうやら、転ばないように、ということらしい。
「気ぃつけや？」
「ありがとう」
　正月のその日、二人の新居から実家へ夫婦そろって帰省した。
　帰省したと言っても、新居と自宅は歩いて５分ほどのところにあるからよく行き来しているので久しぶりという感じはしない。
「ただいま」
　玄関の段差に気を付けながら、中へ。
　ぱたぱたと奥から出てきたのは母親だった。琳子は笑顔を彼女に向ける。
「あけましておめでとう」
「おかえり、明けましておめでとう。体は大丈夫？」
　大きくなったお腹を見て、目を丸くする。急に大きくなったように見えるのだろう。
「調子は良いから」
　家の匂いは落ち着く。居間へ通されると、すでにおせちが用意されていた。
「あれ」
　帰ってくれば顔を出してくれる妹の姿が見当たらない。母親に聞いてみると、友達と寝子島神社へ初詣に行ったらしい。
「あなた達は初詣は行ったの？」
「私の初詣は三が日を過ぎてからかな」
　人混みの中で倒れてお腹の子供に何かあったら大変だ。
「来年は、元旦に行くから」
　琳子は自分のお腹を撫でた。きっとこの子が生まれたら、世界は変わるのだろう。なにもかも、三人の生活になる。
　ふと覚と目が合った。同じことを考えているような気がする。
　来年のお正月には子供を連れて帰省する。
　なんだかそのことが未だに現実じゃない感じがする。
（母親になるなんて）
　現実感がなくてふわふわする。
　二年以上前に、未来を具体的に思い描く機会があった。その時浮かんだ未来とは違うけど、確かに今は幸せだ。
　正月はこうしてのんびりと過ぎていく。

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