初詣に行きましょう｜リアクション

初詣に行きましょう

　綾辻綾花は目の前に現れた階段を見上げた。寝子島神社、初詣には何回も来たことがあるはずなのに、今は少し不安だ。髪を纏めるかんざしの飾りが揺れているのがわかる。
　綾花の今の服装は和服である。淡い赤と桜色の花柄模様、リボンがついた帯。足元は草履で、階段を登れるか少し不安だ。　着物が崩れないように気を付けるしかない。
（着付け、上手い人だったから大丈夫ですよね）
　登ろうとしたところで、手を差し出された。
「僕が支えるから、ゆっくりね」
「はい」
　そっと手を重ねると、すぐに握ってくれた。安心感がある。一歩ずつ、登っていく。
　ちらっと見ると、早川珪はなんなく階段を上っていて、エスコートされている感じが強くなる。
（珪さんの着物姿、素敵でとても似合ってます）
　深い紺色に細めの帯。落ち着いた雰囲気はいつもより頼りがいがある雰囲気だ。
「どうかしたかい？」
「あ、いえ。……珪さんはいつでも格好いいなって」
「そう言われると照れるね」
　二人で笑いあい、人が多い境内へ到着した。お賽銭を淹れて鈴を鳴らす。それから目を閉じて手を合わせた。
（去年は恋も実りましたし受験も合格できました。ありがとうございます）
　去年の幸せのご報告と今年も学業も恋も頑張りますと心で誓う。
　それから二人でおみくじがあるテントへと向かう。
「熱心に手を合わせてたけど、願い事でもあったのか？」
「今年も色々頑張りたいって抱負を。珪さんは何を願ったんですか？」
「いつもの日常が、この幸せがいつまでも続きますように……って」
「幸せ、ですか」
　綾花は珪の手をそっと握る。
「そうですね。続いたら、良いですね」
　おみくじを引くと、今の幸せを噛みしめるように大吉だった。
　恋愛の運勢に書かれていることも、凄く良かったのだが。

　その帰り道、草履の鼻緒が切れてしまったのだ。
「え……そんな」
　鼻緒が切れるのは草履の構造上、かなりまずい。道の真ん中。一発で歩けなくなってしまう。
「どうしましょ、ひゃっ」
　いきなり、お姫様抱っこである。
「あっちにベンチがあるから、そこまで運ぶ」
「お、お願いします」
　人目が気になる状態だが、幸い周りに人はいない。
　抱っこされたままの移動はかなり恥ずかしいが。
「お、重くないですか」
「むしろ軽いさ」
　珪の笑顔を下から眺めていると、くらくらしてくる。
「珪さん」
　そのままの状態で、抱き着く。
「ずっと一緒にいたいです」
「ああ、同じ気持ちだよ」
　鼻緒は珪がどうにか直してくれた。
　帰り道、手を握りながら思う。
（大人にならないと）
　精神的に、珪により釣り合うように。
「どうかしたかい？」
「あの、今年は六月に二十歳になるので珪さんとワインで乾杯できるのが楽しみです」
　珪は頷いて、
「あのワインを開けたいね」
「お酒、弱いか強いかわからないですけど」
　綾花は少し考えて、
「もしもの時は介抱してくださいね？」
「え」
　不意打ちのような珪の顔が可愛かった。
　綾花は彼の手をぎゅっと握った。
（幸せです）

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