風のしっぽがゆらゆらり｜リアクション

風のしっぽがゆらゆらり

　――東京都・目黒川

「わぁ……！！」
「これは見事だねっ」
　夜空に映える、見事な桜並木に稲積柚春とウォルター・Bが歓声を上げる。さすがに張るとはいえ、まだ夜風は冷たいが寄り添えばそこまで気にならず。二人はゆっくりと花を眺めながら並木を行く。
「やっぱり、風情があるよね。本当に素敵……」
　柚春がライトアップされた桜並木を見上げ、うっとりと瞳を細めていると……、そっとウォルターの指が彼女の髪に触れた。
「？」
「あぁ、ほら」
　ウォルターが見せたのは花びら。風に乗って飛んできたのが、柚春の髪に引っかかっていたらしい。礼を述べれば、ウォルターは普段通りの柔らかい笑顔で頷いた。

「見渡す限り、桜ですね……」
　巫部紫苑は、桜並木を一人歩きながらほっこりとした気分になっていた。
　満開の桜は『見事』の一言に尽きる、そう言いたくなるほど美しくて。紫苑はしばしの間ずっと桜を見上げていた。
「あぁ、本当に綺麗」
　ゆっくり歩きながら川へと目を向ければ、ライトに煌めく川を花びらが流れていく。これもまた風情がありますね、とにっこり微笑んでいると、軽くお腹が鳴った気がした。というのも、視線の先に、お団子を食べているカップルの姿が……。
（花見といったら、やっぱりお団子が頭を浮かびます……）
　さっそくお団子のお店を探し始める紫苑だった。

　『花より団子』という言葉があるが、八神修はというと……
（俺は『花も団子も』という気分だなぁ）
　と、串に刺さったよもぎ団子を七夜あおいに食べさせていた。あおいは「これも美味しい！」と幸せそうである。
　最初、のんびりと二人ならんで桜並木を歩いていた。だが、団子を売っている屋台を見かけた途端急に食べたくなり……、二人で話し合い数本買うことに。
　嬉しそうに団子を食べるあおいを見つめ、修は幸せな気分に浸っていた。
　見上げれば、満開の桜。そばには、大切な人。

（俺は今、大きな幸せを感じている……）

　もぐもぐとお団子を食べるあおいのかわいさに『尊さ』を覚え、表情が緩む修。その様子にあおいはきょとん、と首をかしげる。
「修くん、もしかしておなかいっぱい？」
（どちらかと言えば胸がいっぱいかな）
　あおいは、修が首を振る姿に苦笑しつつお団子を口にする。
「おいしい」
　そう微笑むあおいは、花もお団子も楽しめて満足そうだった。

　ご機嫌な様子で桜並木を眺め、鼻歌交じりにお団子を食べる青年が一人――滝原レオンである。
　彼はちらほらとみる観光客や地元の人が桜を楽しむ様も楽しんでいるようだった。
「……美味いな、これ」
　三色団子をもしゃもしゃと食べながら、周囲に目をやればどこもかしこも笑顔の人ばかり。
（やっぱり、花をみると心も和やかになるよな）
　そういうレオン自身も、今、あたたかな気持ちになっている。夜風はまだまだ身に染みるが、それでも胸の奥が……。

「いいもんだな、桜って」
　レオンは満足げに呟いた。

「帰るのが少し寂しくなるかもしれませんね」
　紫苑がぽつり、と言えばレオンが「確かにな」と相槌を打つ。だが、くすり、と修が言う。
「だが……、言葉にあるじゃないか。『花に攫われる』って」
　旅人たちは苦笑し合い「桜に攫われぬうちに」と次の目的地へと向かうのだった。