風のしっぽがゆらゆらり｜リアクション

風のしっぽがゆらゆらり

　――岩手県・龍泉洞。

　観光に訪れた旅人たちを出迎えたのは、鍾乳石と神秘的なコバルトブルーの水面。龍泉洞は多くの地底湖を保有し、その水もまた名水と呼ばれているようだ。

「これは予想以上の美しさですね……！」
「おぉ！　すっごく青くて透き通ってるぞ！」

　リリエル・エーテライトとメリィ・ランページの仲良しコンビは、橋の上からライトアップされた地底湖を見、瞳を輝かせた。さすがに声が響くため、普段より声量を抑えたメリィ。しかしそのワクワク感はきらきら輝く瞳に出ている。
「鍾乳石もキラキラしてる。こんな風になるのにながーい時間がかかるって聞いたぞ」
　そういいながらメリィは鍾乳石の柱に目を移し、まじまじと見入る。リリエルは小さくため息をつき、「神秘的です！」と頷いた。
　『ほしびと』である二人は『星幽塔』で様々な冒険も経験している。だが、寝子島……ひいては、日本にもこんなに興味深い場所があるのか、と冒険心が疼いているようだ。
「この先も気になるね！　早く行こう！」
「えぇ！」
　二人はうきうきしながら順路を進んでいった。

　濡れた足元に気を付けながら白真白はゆっくりと歩いていた。
　時に説明文を興味深そうに読んだり、ライトアップされ煌めく水面にうっとりしたり、時折飛んでくるコウモリを観察したり、と案外飽きない。

「この石、なかなか大きい……。すべすべしてそう」

　天井からぶら下がる石柱を見て、しばし観察。何かに似ているような気がして考え……、思い出す。遊んでいるカードゲームのアイテムカードに似た絵があったことを。
（まぁ、いうのもなんだし）
　真白は苦笑しながら足を進める。
　美しい色合いを見せる複数の地底湖は本当に興味深く、退屈しないな、と真白はご機嫌だ。

「気を付けて歩こうな」
「うんっ」

　寄り添い仲良く進むのは、桜井ラッセルと風の精晴月。二人は手をつなぎ、青々と輝く地底湖と艶めく鍾乳石を楽しげに見て回っていた。
　その途中、風を何かが切る音が。晴月が顔を上げると小さなコウモリが飛んでいる。
「ここは、このコウモリも含め国の天然記念物になってるんだってな」
　ラッセルは事前に調べたことを思い出しながら周囲を見る。タケノコのように伸びた石筍に、まるでつららを思わせる鍾乳石、澄んだ地底湖。そして……。
（後で絵にしてみようか）
　この光景と、無邪気に笑う彼女を。

「なかなかひんやりしているね」
「たしか、洞内の気温は１０度前後とか……」
　七夜あおいの言葉に、鴻上彰尋がパンフレットを見て頷く。彼がそっと腕をだせば、あおいは少しはにかんで腕を組みゆっくりと歩き始める。
（少し照れるかもしれないな）
　彰尋は傍らで微笑むあおいに少々耳が熱くなるのを感じながら、様々な表情を見せる鍾乳石を見たり、飛んでくるコウモリを見つめたりした。
　のんびりと歩きながら、大切な人と美しい光景を楽しむ。その幸せをしみじみと噛み締めながら彰尋は小さく微笑んだ。
　あおいが微笑めば、それだけで少し鼓動が早くなる。共に歩くだけで幸せを覚え、少しだけ表情が柔らかくなる。あおいはそんな彰尋に対し、ニコニコと微笑んでいる。彼女もまた、この時間を楽しんでいるようだ。
「寄り添うとあったかいね」
「あぁ……」
　あおいの言葉に、彰尋は少し頬を朱に染めて頷く。あおいは軽く彰尋の腕を抱きしめ、少しだけ照れるように頬をかいた。
「美しい光景を、あおいさんと一緒に見ることができて幸せだ」
　彰尋は、漸くといった様子でぽつり、と呟いた。