風のしっぽがゆらゆらり｜リアクション

風のしっぽがゆらゆらり

　秋も過ぎて、冬に突入しようという季節の中で。
　富山県の黒部ダムは観光放水を行っていく。
　その量はなんと毎秒１０万トン！　日本一の高さから放水されるその光景は、風向きによっては肌で感じることも出来るのだ。

◆
「ぱぱ、おみずー！」
「おっと、始まったみたいだね」

　娘の香凛をしっかり抱きかかえて、ウォルター・Bは娘の指差す方をみる。
　丁度観光放水が始まる時間のようで、大きな音を立てて水が流れ始めていた。

「すごいねぇ。いっぱい流れてる」

　同じように稲積柚春も観光放水の光景を見ては、風で流れてくるミストに思わず目を閉じる。
　今日は風向きが柚春達に向けられているようで、よくわからないお水を浴びた香凛は目をぱちくりとさせていた。

「あはは、びっくりしちゃったね」
「大丈夫、怖くないよ」

　父であるウォルターと、母である柚春が香凛を撫でて安心させていく。
　今日は楽しい家族の日。冷たい水がちょっとした刺激となったようだ。

◆
「うわー、すっごい！」
「これが日本一の高さから出てくる水……！」
「あっ、今日の風向きだとミストが……わあー！」

　放出される水が細かな霧となり、吉住獅百合と吉住志桜里と卵城秘月に降りかかる。秘月は特にメガネを掛けているため、レンズがびちゃびちゃだ！
　だがそれもこのダムの醍醐味の１つ。放出された瞬間に散った水が風によって運ばれて観光客に向けられるなんてよくあることなのだ。

　放水の瞬間、その光景をスマホのカメラに収めていた秘月。今の撮れた！？　と志桜里が目を輝かせているのでもう一度見てみようとスマホの画面を一緒に見る。

「……ん？」

　その間に獅百合がダムに目を向ける。音を立てて流れる水を見たって特に何も無いのだが、獅百合はあるものを見つけて目が離せなくなったのだ。
　今日は雲のない晴れやかな日、そして風向きは観光客に向いており人の目には見えないほどの小さな水の粒が空を舞っている。
　この条件によって生み出される光景といえば……。

「……虹だ！」
「えっ！？」
「何処っ！？」

　空気中の水分と光の角度によって生み出される自然の奇跡、虹。
　七色の帯が空気中にキラキラ輝く光景は今この瞬間にしか見れないものとなっており、興奮気味の志桜里がカメラマンである秘月にまたしてもお願いした。

「秘ぃ、虹撮れる？！」
「ちょっと待ってね、試してみる」

　パシャリ、と１枚。スマホのカメラで撮ってみると。
　あら不思議。放水と虹と太陽の光が綺麗に揃った光景が映し出されたとさ。

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