風のしっぽがゆらゆらり｜リアクション

風のしっぽがゆらゆらり

「どういうことッスかコレ！？」
　恐竜博物館の常設展示室を訪れた古尾桐子の、第一声はそれだった。
　何せ天井にはミラーボールが七色に輝いていて、どこからか陽気な音楽も流れてきている。
　極めつけは、音楽に合わせて軽快に巨体を揺らす、ティラノサウルスの全身骨格である。
　下手したら逃げ出してしまうような状況だが、桐子は違った。
「わかったッスよ！」

　言うなりティラノの足元へ躍り出た、いや、足元で躍りだした。何故って？　この音楽、この動き、きっとこのティラノはダンスがしたいのだと思ったからだ！

　八神修と七夜あおいは、顔を見合わせた。
　常設展示室が、恐竜たちが踊り狂うダンスホールと化していたからだ。
　これも神魂の影響なのだろうか。
　だが修の見たところ、恐竜たちは本当にただ踊っているだけの様だ。それならと修は、展示室を見まわしていたあおいへ声をかける。
「あおい。せっかくだし、俺たちも踊らないか？」
「えっ？」
　ぱちぱちと目を瞬かせるあおい。彼女の大きな瞳には、ミラーボールの光が映り込んでいた。
「私、ダンスとかよくわからないけど大丈夫かな？」
　七色の輝きが散った瞳を見つめながら、修はふっと微笑む。
「大丈夫だ、俺がエスコートするから。それに、あおいが楽しく踊れればそれでいいと思うよ」
「そっか。――うん、じゃあ踊ろっか！　エスコート、よろしくね？」
　笑みと共にあおいが差し出した手を取った修は、映画の中のダンスパーティーのように、うやうやしく一礼。
「ああ、もちろん」

　そして二人は手を取り合って、時を越えたダンス会場へ飛び込んでいく。

「英二くん、なんか楽しそうなことやってるよー！」
「の、野々さん！　博物館の中は走っちゃだ……め……？」
　駆け足気味な野々ののこに手を引かれてやってきた佐藤英二は、ダンスホールめいたことになっている常設展示室を目の当たりにして、さすがに我が目を疑った。
「どういうこと……？」
　あんぐりと口を開け、ぽかんと展示室を見つめる英二に、ののこがにっこりと笑いかける。
「私たちも踊ろうよ！　絶対楽しいよ！」
　そう言いながら足踏みをするののこは、今にもその場で踊り出しそうな気配。
　そんな全身から楽しそうなオーラをあふれさせるののこの姿が眩しくて、英二の頭の中から驚きがどこかへ吹っ飛んでいく。
　ののこが楽しそうなんだから、それでいいじゃないか！
「そうだね、踊ろっか！」
「うん！」
　手に手を取って、二人は常設展示室へと飛び込んだ。

　二人ともダンスのことはよく知らないから、実際のところは音楽にあわせて好きなように体を動かすだけ。
　でも、それで良かった。いや、それがよかった。だって、それが楽しいから！

――こういう映画を、以前にどこかで見たような気がする。

　踊る恐竜の骨格たちを見上げて、志波拓郎はそんなことをふと思った。
　次の瞬間、彼の目の前に、イグアノドンの骨格がやってくる。
「……ん？」
　小首を傾げた拓郎の前で、イグアノドンは前脚と体を揺らして、尻尾をふらふらとさせる。頭蓋骨の空洞が、なんだかつぶらに見つめている気がした。
　もしかして、踊りに誘っているのだろうか。
「……よし、わかった」
　イグアノドンの目というか眼窩を見つめ、こくりとうなずく。状況はさっぱりだが、どうせなら楽しむことにしよう。

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