【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ｜リアクション

【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ

　弘明寺能美子は古典的な萩柄の浴衣を着て、祭り見物にやってきていた。
　帯に飾り紐を付け、結った髪には繊細な作りの簪を挿す。
　そして歩くと時たま覗く足首は、帯の色に合わせたアンクレットで飾っている。
　浴衣がシンプルな分、小物を華やかに。
　彼女のオシャレへの気遣いが垣間見えるコーディネートだった。
　そんな能美子もいつのまにやら七夕＆ポニーテールの世界に引きずり込まれ、喧騒に巻き込まれることになった。
（なんで私がこんな目に合うのかしら）
　状況確認も追いつかず、怒りに身を震わせながら川の畔に立っていた。
「あ、」
　声のした方を見ると、カップルが抱き合っている。
（サイアク……）
　能美子はため息をついて、踵を返すと、
「きゃ！」
　目の前に後木真央が落ちてきた。

（う、嘘でしょ）
　雨寺凛は自慢の髪が結われたことにはそこまで、驚かなかった。
　いつの間にか着ている、浴衣には驚きはするが衝撃は受けなかった。
　けれどスースーとする胸、妙に食い込んだ下着を理解するのには、なかなかの労力を必要とした。
（ま、まわし一丁！）
　クラクラとする頭を押さえているうちに、目の前で後木真央が飛んで、飛び出して、飛ばされてしまった。
　そして真央自身は意識を失ってしまう。
（もう、なにがなんだか全然わかんないよー！）
　めまぐるしい展開に凛の思考はついていけない。
　そうして凛が半べそをかいているうちに、音海なぎさと添木牡丹が真央の元に駆けていった。
　

「僕のスパッツはどこだ!?」
　もろもろの出来事に気が付かないほど、伊賀解理は混乱していた。
　真っ青な生地に白抜きの朝顔の浴衣。
　いつの間にか下駄を引っさげ、
　スースーと足元を撫でる隙間風。
「は、恥ずかしいよぉ……」
　まわしは下着と違い見られても問題がないと頭では理解していても、スパッツがないというだけで、解理の顔が火照り身体も縮こまってしまう。
（これで相撲をとれと？　馬鹿かね？　死にたいのかね？　むしろ死ぬべきだと思わんかね？）
　後木真央と完全に意見が一致した解理。
　しかし彼女のように解理は動くことは出来なかった。スパッツがないから。
　というわけで、そんな馬鹿げた行為は他人に任せ、解理はなるべく人目に触れない場所に避難しようと動き出す。
　この辺りにあるのは土俵。川。笹林。川はどこまで伸びているかわからないし、笹林はどこまで広がっているかわからない。
　なんにせよ答えはひとつしかなかった。
　解理は林めがけてそろそろと動き始める。
　一歩進む。二歩進む。三歩進むとなにかあるような気がして、解理は周りの観察に意識を使った。　
「……って、いいんちょ！」
　北風貴子がいつもと変わらぬ凛々しい表情でそこにいるではないか。
　強引に結んだ髪と、黒に近い濃紺色の浴衣以外はまさにいつも通り。
　その『フツウ』が解理の『異常』をより浮き立たせるようで、解理は汗が吹き出すのを自覚した。
　もし彼女にこの姿を見られたら――
「ど、どうしよう……」
　脚が硬直する。
「お、落ち着け、素数を数えながらいつものように対応すれば問題ない。そう、いつも通りにＫＯＯＬに対応すれば……」
　発音がおかしいことにも、全然落ち着けていないことにも解理は気づく余裕がない。
　そして、その不審な動きは、
「伊賀さん……？」
　すぐに貴子に見咎められた。
「ひぃ！」
　解理の肩が大きく跳ねて、それから背中を丸めてやっとの思いで返事をした。
「き、北風先輩……こ、こんにちは」
「いったいここはなんなの？　頭のおかしい人間が仕切っているようだけど、」
「ぼ、ぼくにはなんとも、夢じゃないんですかね、きっと」
　けれどその後も会話に集中など出来るはずもなく、股がすーすーするなということばかり考えてしまう。
「これが夢？」
　そこへ刺のある貴子の言葉。
　もう解理には耐えられなかった。
「たぶんそうです、ごめんなさいごめんなさいッ！」
　返事半分に謝って、そのまま脱兎のごとく逃げ出した。
　しかし残念。いまは下駄。そんな俊敏な動きができるはずがなく。
　それでも押し切って動いた場合、
「ファァァ!?」
　見事にずっこけるしかなかった。
　こうなってしまえば解理が気になるのはただひとつ。
　見えたか。否か。
　見えてたら死ねる、死んじゃう、どうか見えていませんように。
　ちらり。解理が貴子を見上げると、
「み、見てないから」
　マッハの勢いで貴子が目をそらした。
「ファァアア!?」
　そんな貴子の優しさが、かえって解理の傷を抉るのだった。

このページにイラストを設定する

【七夕】ポニーテールとＳＵＭＯ

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧