マンガ×サウナ×ロボット｜リアクション

マンガ×サウナ×ロボット

　ロボット。そう一言で言い表すことは難しい。アームだけの産業用ロボットもあれば四肢を持ち対話する案内用ロボットもあるし、ホビー用ロボットなんてものもある。そんな風に華々しく活躍するロボットたちもあれば、目に見えぬところで黙々と粛々と動き続けるロボットだってある。
　『ロボットエキスポ・ネコジマ』はそんな多様なロボットたちの最先端、真実をつまびらかとする催しだ。
「技術の進歩ってのはすごいもんだねぇ」
　むずがる娘を胸に抱いてあやしながらに稲積柚春は、もう一人の大きな男の子のはしゃぎようを微笑ましく見つめた。
「モノづくりに物流、各種サービス、医療、へぇ～災害対応も！　いやぁ時代を感じるね、僕が子供の頃はこんなふうにロボットが生活の中へ浸透してくるなんて思っても……あれ、どうかしたかい柚春」
「ううん。ワットが楽しそうで何より」
　ウォルター・Bのたっての希望で訪れたが、夢中だ。まるで子供が二人に増えたかのようで、このイベントを彼が大いに楽しめていることは結構だが、柚春としては少しばかり気を張り詰めねばならなかった。
「楽しいのはいいけど、はぐれないでね？　はぐれちゃったら……」
「はぐれちゃったら？」
「次のデートは蛇とも触れ合える爬虫類カフェだからね！」
「そりゃ怖い。気を付けるよぉ」
　そう言っておどけながらに、柚春の腕の中の娘をくすぐりあやした。
　母親や父親としての心構えも少しずつ身についてきたように思う。近ごろはこうして親子で外出する余裕も生まれてきた。この子がこれからどんな体験をし、どんな道を歩んでどのように成長してゆくのか、楽しみでもあり不安でもあり……しかし隣に並び立つ彼と共にあれば親子３人、進んでゆけるだろう。きっと良き道へ導いてゆけることだろう。
「さぁ香凛、パパといっしょにロボット見ようねぇ。おや、あれは何かなぁ？」
　まぁ娘をダシに好奇心を満たしたい節も無いではないが、旦那も娘も楽しめるのであれば言うことなしだ。
「香凛にはちょっと早い気もするけどね……」
「あっちに子守ロボットっていうのがあるらしいよ。まぁ香凛をロボットに任せる気はないけど、参考までに見てみようか？」
「へぇ、そんなのもあるんだね。そうだね、参考までに」
　子供を抱えて自動的に揺さぶるようなものを想像していたら、要するに不在時や運転中など手が離せない時に子供の様子を見られるカメラを備え、子守歌を歌ったり手を叩いて機嫌を取ったりする機能を持つ、ぬいぐるみの延長のようなものであるらしい。
　いつかお世話になるかも知れない。二人は心へ留め置くこととし、小さな娘は試作品ロボットの愛嬌たっぷりな仕草にきゃっきゃと笑った。

　会場にうねる人の波を避けながらの見物となったが、眺めているだけでもなかなか楽しめる。
　ウォルターが先ほど技術の進歩について触れたがそれには柚春も首肯した。例えば客を案内する自走式ロボットだ。昔は安定性を保持するためにずんぐりとしていたものが、今では何ともすらりとしてスマートではないか。それにひびわれた合成音声でしゃべるでもなく聞き触りの良い声で、おまけに数か国語を操るというのだから驚く。ウォルターの流暢な英語にも卒なく対応してみせる案内ロボットの進化系に、柚春は思わず面食らった。
　それにロボットが活躍する分野は実に多岐に渡る。
「見てワット、おにぎりを握るロボットだって！」
「へぇ、器用に握るもんだねぇ」
「ふふふ。ワットとどっちが上手かな？」
　この後は近場でピクニックの予定で、用意した弁当の中身のうちおかずは柚春が、おにぎりはウォルターが担当した。ロボット作のおにぎりも販売しているそうだから、いくつか購入して食べ比べてみるというのも楽しいかもしれない。
「……っとと、どうしたの香凛？　退屈しちゃった？　それとも、お腹空いちゃった？」
「少し向こうで休憩しようか」
　会場に据えられたベンチに腰かけ一休み。哺乳瓶を含ませてやると娘は満足げに飲み始めた。授乳にも慣れたものだと柚春はどこか感慨深く思う。

「あれ。ワット、どうかした？　じっと見つめて」
「いや……何だか感慨深くてね」
　彼も同じく感じていたようで、嬉しくなる。
　我が子を二人で。一人ではなく彼と共に育ててゆく。共に苦労をし、共に喜びを分かち合う。この先何度でも、幾年月が過ぎようとも。
「……幸せだね。ワット」
「うん。幸せだ」
　ほっこりしていたら案内ロボットがやってきて、ウォルターを見てCan I help you?　と尋ねた。思わず二人顔を見合わせ、吹き出した。

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