ある迷宮で手繋ぎを・綺｜リアクション

ある迷宮で手繋ぎを・綺

　佐藤英二は野々ののこと手を繋いだまま、城内にを歩いていた。長く続く廊下の先は暗い。ただ、点々と続く燭台の火が周囲を照らしてくれているので、歩きやすく思えた。
（理屈はわからないけど『手を繋いで』行動するのがキーアクションかな？）
　最初の扉を開けたときを考えればそう、きっと今も手を繋いでいるから何事も起こらず歩いていけるのだろう。
「英二くん、緊張してる？」
「うん、ちょっとドキドキするかな」
　迷い込んだ謎の空間にも、好きな子と手を繋ぐという状況にも。
（正直、すごくドキドキするけど、無事に野々さんと脱出するのが優先だし頑張ろう）
「野々さん、ここから脱出できたら、やりたいこととかあるのかな？」
　いつダッシュが必要な状況になるかわからない。何があるのかわからないから、肝心な場面で全力を出せるよう、リラックスしたほうがいいと英二は考えた。
「うーん、急に言われても思いつかないかな。英二くんは？」
「僕はこの間、コンビニで見かけた変なジュースをチャレンジしてみたいかな」
「変なジュース？　おいしくなさそう？」
「予想できそうにない味が書いてあって……ここを脱出できたら、コンビニでお菓子やジュースを買って、お祝いのプチ打ち上げをしようか？」
「それいいね！　打ち上げ会が楽しみになってきた！　そのためにがんばって脱出しないとね」

　気になっていたゲーム実況動画の話をしていたときだった。燭台の火が途切れて、前方に崩れ落ちそうな細い床が見えてきた。床は幅がとても狭い。それなのに、床の下にはプールがあり、冷たい水がなみなみと満ちている。
「わーっ、落ちたら戻って来れなさそうだね」
「あっ野々さん」
　プールの様子を見ようと、ののこが手を離し先にプールに近づく。その途端、細い床は崩れてプールの中に落ちた。同じようにプールの近くに来て、英二はドキドキしながらののこの手を握った。
「あっ……！　床が戻っていくよ」
　しばらく経って、崩れ落ちていた細い床は、完全に元通りになった。幅の細さは変わらないが、手を離す前と同じ床だ。
「やっぱり、『手を繋いで』行動するのが大事なんだ」
「離しちゃってごめんね。もう離さないように気をつけるね」

　英二とののこはそろりそろりと、細い床を歩き始めた。うっかりバランスを崩そうものなら、冷たい水に落ちてしまう。バランスを崩さなくても、手を離してしまったら、同じように落ちる。そうならないよう、お互いに息を合わせて、ゆっくりと歩を進めた。
「とうちゃーくっ！」
　最後の一歩を踏みしめて、細い床の先にたどり着いた。最初とは違う緊張で心臓がドキドキしていたが、無事に渡り切れて良かった。
　燭台の火が一定の距離を空けて、点々と続いているのが見える。そういえばののこがプールの前で手を離したとき、辺りが薄暗くなったような気がしたのは見間違いではないだろう。きっとこの灯りも、手を繋いでいるから見えるのだ。
　その場で少し座って休憩してから、立ち上がる。後ろに戻る気はないから、先へ進むしかない。
「この火をたどって行こうか」
「うん！」
　手を繋いでいるから見える火だ。進むべき道と無関係とは思えない。ゲーム実況動画の話の続きをしながら、火をたどって、２人は歩き出した。

　気がつくと、元の世界に戻っていた。見慣れた寝子島だ。
　冷静になって、繋いだままの手に気づき、英二は顔を赤くする。かといって、急に離してしまうのも名残惜しい気がして、そのままでいた。
「英二くん、お菓子買いに行こうよ！」
　プチ打ち上げ会の話を、ののこはしっかり覚えていた。
「変な味のジュースも飲んでみようね！」
「そうだね」
　英二とののこは手を繋いだまま、コンビニへ向かって歩き出した。

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