ある迷宮で手繋ぎを・綺｜リアクション

ある迷宮で手繋ぎを・綺

　桜井ラッセルはいつの間にか見知らぬ城の中にいた。傍には風の精晴月がいて、安堵する。
「晴月も一緒か。むしろ一緒で良かった」
「私もラッセルがいて良かったよ」
「風の精で強いことは認めるけど、やっぱ不安だし隣にいてくれるだけでほっとするよ」
　ラッセルは周囲を見回す。
「とりあえず見てまわるか」
　薄暗いので足元に注意しつつ、辺り一帯を観察する。壁に取りつけられた申し訳程度の灯りが城内を照らし出した。
（おお、すっげぇ……古城の建築美と迷宮の神秘さが溢れてて）
　閉じ込められている状況でなければ、写真やスケッチをとって思い出に残したいぐらいだ。
（ま、無理なんだけど）
　ラッセルは隣にいる晴月を見やる。ふわりと笑う彼女と目が合って、少しだけ鼓動が早まった。ラッセルと晴月は友人だが新米恋人同士、異空間に閉じ込められたとはいえ、２人きりという状況は少し緊張する。
　だが、見知らぬ空間だ。危険が一切ないとは限らない。
（大事な晴月がいるんだ。俺がリードして迷宮から脱出しなきゃ）
　ラッセルは静かに拳を握った。

「……あれは？」
　進む先に、何かがいる。直立不動で立っている。
「甲冑、か……？」
　城内によくありそうな銀色の甲冑が、壁に背を向けて立っている。まるで今にも動き出しそうだ。
「あっぶね！！」
　ラッセルはとっさに晴月の手を握り、引き寄せて甲冑の攻撃をかわした。その途端、甲冑の動きがゆっくりになる。
「お？　おお？」
　危険が無いよう甲冑と大きく距離を取ってから、晴月の手を離したり繋いだりしてみる。そのたびに、甲冑は通常の動きになったりゆっくりとした動きになったりした。
「手を繋いでクリアするのか……いけるか晴月？」
「大丈夫だよ！」
「大丈夫かもしれねーけど、気をつけろよー」
　晴月は手を繋いだまま、器用に甲冑がこちらへ来ないよう風で押し返す。ガシャンと音を立てて、甲冑が崩れ落ちた。
「って！？」
　倒れた音にまぎれて動き出した２体目の甲冑が、ラッセルに襲いかかった。
「ラッセル！」
　突然強い風が巻き起こり、甲冑の体を押しとどめる。振りかぶった剣はそのまま下ろすことができないで、甲冑はガシャンと大きな音を立てて、後ろへ倒れた。パーツが散らばって、まるで壊れたように見える。
「はは、俺が助けられちゃ男の面目丸つぶれだな」
　ラッセルは苦笑しながら晴月の頭を撫でる。
「ありがとな晴月、助かった」
「どういたしまして」
　そんな安堵の状況の後ろで、カタカタと音が鳴る。倒れ崩れていた甲冑のパーツが一つ、また一つと動いて元の位置へ戻り始める。
　悠長なことはしていられない。
「走り抜けるぞ！　せーの！」

「晴月！」
　ラッセルの声に反応し、晴月が身を引く。ナイフは晴月には届かず、空を切った。
「俺が怪我したりするのはいいけどな、晴月に怪我させてみろ。俺が黙っちゃいねーぞ」
　暗殺者のようなローブを身にまとった者と対峙し、ラッセルは晴月の手をぎゅっと握る。現実世界ではない、この不思議な空間なら、ろっこんが使えるかもしれない。
　ラッセルは空いている方の手で、首から下げたオルゴールの金の鍵を強く握りしめた。
　金の鍵を首からぶら下げた鷲が現れる。手を離したことで辺りが少し暗くなったが、２人とも飛べるから、きっと大丈夫だろう。
　鷲になったラッセルは、暗殺者の首元めがけて特攻する。最初はナイフ片手に抵抗していたが、空中の２人に諦めたようで、さっさと闇の中へ姿を消した。地上に降りたらいつまた襲ってくるかわからない。このまま一緒に飛んで移動したほうがよさそうだ。
「このまま飛んで行くぞ！」
「じゃあ廊下の終わりにどっちが先に着くか競争だね！」
「あっ、こーら、楽しむなよー！」
　苦笑しつつ、ラッセルは晴月を追いかける。
　追いかけていくうちに、辺りがいつのまにか城の外になっているのに気づいた。
「あれ、廊下、は……？」
　霧も徐々に薄れているような、そんな気がして、鷲から人の姿に戻る。晴月も隣に降り立って、どちらからともなく手を繋ぐ。その行為に緊張はなく、安堵だけが訪れる。
　視界には点々と続く燭台の火があり、こちらへ行けと指し示しているようだった。

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担当マスター：鳴葉ゆらゆ
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