天の星のごとく数多で素晴らしき｜リアクション

天の星のごとく数多で素晴らしき

　ヤドリギの下で

　はらはらと降る雪を受け止めるのは、真っ赤なポインセチア。
　白く輝く氷樹のようなクリスマスツリーは電飾で七色に光っている。
　凛と冷え、それでいて浮足立つような冬の街を、綾辻綾花と早川珪は手を繋いで歩いている。
　ねこぴょんの日からはじめてのクリスマスだった。
（恋人になってはじめてのクリスマスです）
　珪の右手の薬指に嵌められた指輪を、綾花は自分の左手の指で確かめるようになぞった。自分の右手の薬指には、対になる指輪が嵌っている。互いの想いの証をこうして物質として持ちあえることはこの上ない喜びだ。
「去年とは違いますね」
　くすっと肩を竦めて笑う綾花に、珪はすこし不思議そうに視線を向ける。
「そう？」
「そうですよ。だって去年は」
「まだ制服の似合う、あどけない高校生だったね」
　そう、生徒と先生だった。今年は違う。
　彼の隣を歩いていても、手を繋いでいても、誰に咎められることない一人の女性に綾花は成長していた。
「成長してないのは僕だけかな」
　珪はそういって眩しそうに綾花を見る。
　女性は一年でけっこう変わるものだ。とくに恋をしているときは。
「もしも私が成長したなら、それは珪さんがそうさせてくれたんだと思います」
　『先生』ではなく、『教師という職業に就いている彼氏』となった年上の人を、綾花は見上げる。
　彼の唇へ、自然とおねだりするみたいにつま先立ちになってしまう綾花の体を、珪の手がさりげなく支えた。

「ん……」

　唇が触れ合う。
　人目を気にする必要なんてないのは確認済みだった。まわりも同じようなカップルばかりでおのおのの愛を確かめ合うのに忙しく、誰と誰がいるのかなんて気にも留めていないだろう。
「去年は」
「ん？」
「生徒と先生だからとはぐらかされました」
　ちょっぴりだけ唇を尖らせて、綾花は一年越しの文句をいう。
「ごめん」
「いいんです」
　去年そんなことをしていたら通報ものだ。三十路になる教師の男が女子高校生に手を出した、なんて、ネットニュースの恰好のネタにしかならない。恋の代償は大きく、綾花も珪も傷つくことになりかねなかった。けれど今年はもう違う。綾花はもう一度背伸びしてちゅっと二度目のキスをする。
「今日、こうして叶えられましたから」
　微笑んだ綾花は、珪をヤドリギの下へ誘った。
「珪さん、ヤドリギの伝承、知っていますか？」
「北欧神話かい？　世界中のすべてのものが光の神バルドルを傷つけないと誓ったとき、ヤドリギだけが若すぎて契約しなかったために、悪戯好きの神ロキの計略に用いられてバルドルを死なせてしまったという」
「違います！　ヤドリギの下でキスをすると永遠に結ばれる、です！」
　ああ、と珪は頭を掻いた。
「女の子はそういうの、本当に詳しいね」
「恋する女子には大事なことです」
　不安で不安でたまらないから、そういうジンクスをひとつひとつ実践してゆきたくなるのだ。
　好きだから。でも、それって私だけ？　あなたも同じだけ好きでいてくれる？　って何度でも確かめないと、あなたの隣に立っていられないような気がしてしまうから。
「珪さんはとっても素敵だし、誰にでも優しいし、私みたいに珪さんを好きになっちゃう生徒と出会うかもしれないじゃないですか……」
「信頼できない？　高校生だった君を好きになってしまったくらいだし前科があるといえばあるね」
「そうじゃないですけど……ん」
　唐突に唇を塞がれて、目を瞑ることも忘れてしまう。
　しかしやがて、甘く溶けるような感覚に呑まれて綾花はゆるりと瞼を閉じた。
（珪さん……永遠に愛します）

　聖夜、ヤドリギの下。ふたりは互いの唇を重ね合う。