光風霽月｜リアクション

光風霽月

　折角だからと皆が選んだ『春の風まつり』とのコラボメニューには、持ち帰りできる布製のランチョンマットが付属していた。
　カトラリーの準備の際にセットされたそれは、ランダムで絵柄が違うということで話題のひとつになって、前菜が並ぶ頃には場の空気もすっかり変わり、晴月の緊張も大分ほどけたようだ。
「わぁーっ！」
　スライスしたハムやチーズ、そしてプチトマトで作ったかざぐるまがのった小さなミモザサラダ。それは昼間にラッセルと見た、かざぐるまと花畑のコラボレーションを彷彿とさせる。
　そしてコンソメスープには風車や小鳥の形に型抜きされた人参が浮かんでいて、とても可愛らしい。
　すかさず前菜を写真に収める柚春を見て、千里も晴月の笑顔を撮ろうとする。だが、そのピントは晴月が顔を上げたことで盛大にブレた。
「ねぇラッセル！　これ凄いね!!」
「あ……ああ！　昼間に見た景色まんまだな」
「うん、思った。あ、柚春さんのは鳥じゃなくて……紙飛行機？」
　わいわいとお喋りを楽しみながら食事を始める。この分なら、帰るまでにはラッセルと晴月の仲も元に戻るだろう。そんな安堵とともに、千里は４人が笑い合っている顔を写真に収めた。

　前菜はほぼ同じだったが、それぞれが頼んだメインメニューは違っている。
　風車の土台をハンバーグやステーキにし、羽はやや厚めのベーコンがクロスしていたり、マッシュポテトにポテトチップを刺して表現していたりとボリューム満点な物もあれば、細めのプレッツェルの周囲にフィッシュフライを並べることでかざぐるまに見立てているのもある。
　続いて、お子様ランチのように仕切りのついた風車型のプレートに、土台部分にはボロネーゼを、羽の部分には少しずつサイドメニューが楽しめるなんて物もあれば、クロワッサン生地をかざぐるまのように折ったデニッシュピザも並び、テーブルは一気に賑やかになった。これには晴月だけでなく、一同が圧倒されてテーブルを見回している。
　再びカメラマンになろうとしていた千里へ、ウェイターが「皆様で記念写真はいかがですか？」と声を掛けてくれたので、６人揃っての写真も撮れた。見た目だけでなく味も良しな料理へ舌鼓を打てば、笑いや揶揄いが自然と出るほどにまでなって、ほどよくラッセルの肩から力が抜けたのを見計らったウォルターが彼を小突く。
「月の橋」
「えっ？」
「虹は見損ねちゃったから、探したいよねぇ」
　ウォルターでもそんなことを思うのかと、意外な物を見るような目でラッセルが見返すものだから、彼は少し照れくさそうな……ほんの少し、後悔したような顔で園内マップを取り出す。指差す先には月の橋についての簡単な説として『大事な人に感謝をしたり、想いを素直に伝えると良い』という一文が書かれていた。
「必要かなぁって思っちゃうよね。こういう、背中を押してくれる場所……お互いにさ」
　ウォルターの言った『お互い』が、ラッセルとウォルターを指したのか、それともウォルターと柚春を指したのかまではわからない。けれど、しみじみと哀愁を漂わせて語る彼を見れば、柚春に伝えたいことを伝えそびれたのだということは明白だ。
　何でもそつなくこなすから超人のように思われがちだけれど、ウォルターだってただの人。迷いや選択を誤ることだって、普通にある。そういう弱さが自分にもあるよと教えてくれたようで、ラッセルは思わず親近感を覚えた。
「あくまで背中を押してくれるだけですからね。伝えたいことは、ちゃんと自分の口で言わないと！」
「……だよねぇ」
　同じ答えで良かったと安堵した笑みを浮かべて、ウォルターは柚春に向き直った。
　虹の麓は目星をつけていた柚春のこと、月の橋に心当たりはあるかと聞いて、願い事は無いって言っていたけど月の橋は興味あるかと誘って頑張っている。
　ならばとラッセルも晴月に声をかけようと正面を向く。すると、こちらを見ていたらしい晴月と目が合い、彼女は一瞬だけ驚いたように瞬き、微笑んだ。
「月の橋、探しに行くの？」
「おう、折角来たんだからな。晴月はこういうの、興味あるか？」
「……ある！　絶対見つけようねっ！」
　いくつか小川を渡ったときにも橋をチェックしたけれど、それらしい橋は見つかっていない。『月の橋』という名前だからこそ夜には光って見えるのかもと予想を立てる柚春や、でも昼間にも白い月はあるよという晴月にますます場所を絞り込めず、作戦会議は難航する。
　そうして賑やかな食事の時間は終わり、３グループに分かれて月の橋を探しに向かうのだった。

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光風霽月

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