【日曜朝８時の魔法】

「魔法のピンキー・クリスタル、モモ！」
「魔法のウルトラマリン・ベル、リリ！」
「「キラッと参上！　ふたりあわせて、マジカル☆ガールズ！！」」
「いきますよ、リリ！」
「おっけーなのです、モモ！」
「「必殺☆マジカル☆トゥインクルフラーーーッシュ！！」」
「ぐわあああっ、おのれマジカル☆ガールズ！　お、覚えてろーーー……」
　どぎゅーん、きらん☆とお空のお星さまになった宿敵クロサキ男爵を見事退け、モモとリリはハイタッチ！　マジカル☆ポーズをキメるとハートのエフェクトがド派手にフラッシュして、見守るギャラリーたちを大いに沸かせたのでした。
「キャー、モモちゃん！　リリちゃん！」
「マジカルモモ、素敵ー！」
「リリちゃんちっちゃくてかわいい！」
「あっ見てみて、モモちゃんがわたしに手をふってくれたよ！」
「リリちゃーん、こっちみてー！」
「「「きゃーーー」」」
　ありがとうマジカル☆ガールズ！　来週もまた見てネ♪



　マジカル☆ガールズの輝かしい活躍は毎日のようにニュースや新聞をさわがせ、ファンは色めき立ち、世を騒がす悪の組織や怪人たちはふるえて眠るのだ。
　しかし、実は……ふたりの魔法少女には世に知られぬ、ひみつの顔があった。
「クロサキ男爵は、今週も凝りませんでしたね」
「まったく。日曜の朝から、人騒がせなのです！」
「やっぱりここは私たちが、彼の力の源、ノワールクリスタルを奪わなくちゃいけませんね」
「男爵の屋敷に侵入して、クリスタルを盗み出すのですっ」

「魔法の怪盗団アイビー＆ベル、出動です♪」
「正義のミッション、スタートなのです！」
　ふたりの裏の顔とは、悪辣な輩のみを標的として盗み出す、正義の怪盗団であったのだ！
　午前０時、古時計の鳴らす鐘の音が屋敷へと響く。寝静まった頃を見計らい、ふたりはミッションを開始した。
「ヒレツな男爵のことです。魔法の罠がてんこもりに仕掛けられているに違いないのです」
「そうですね、リリ……じゃなくて、ベル。気をつけて進みましょう」
　邪悪な魔法使い、クロサキ男爵の操る魔術にはいつも苦戦を強いられてきた。今朝もどうにか退けることができたものの、このところは彼の力の高まりを感じずにいられない……その源となっているのが、彼の持つノワール・クリスタルだ。怪盗アイビーこと魔法少女モモの持つピンキー・クリスタルと対をなす、強力な魔法触媒である。その黒き輝きが男爵の邪悪に磨かれ増してゆくほどに、彼の力もまた高まってゆくのだ。
　そんなノワール・クリスタルを手に入れ、モモがホワイト・クリスタルへと浄化することができれば、男爵の操る魔法は弱体化し、反対にモモの魔法はさらに輝きを増すだろう。
「！　アイビー、見てください！」
「あれは……ゴーレム！」
　屋敷に警備員の人間はおらず、代わりに配されているのは魔法によって形づくられた土人形だ。動きは鈍いがすさまじい膂力を持ち、パンチのひとつも受ければ魔法少女であるアイビーやベルとてひとたまりもないだろう。
　ゴーレムは屋敷の要所に立ち、物言わずたたずんでいるが、ひとたび侵入者を探知すれば怒涛のごとく押し寄せるはずだ。
「ここは、魔法のマントの出番ですね♪」
　ならば見つからなければよい。マジカル☆ガールズはこんなときに頼るべき数多の魔法を修めているのだ。
　アイビーは透明に淡い光の縁取りをまたたかせるマントを作り出すと、ベルといっしょにそれを頭からかぶる。たちまち姿は見えなくなり、絨毯を踏むかすかな足音だけがゴーレムたちの合間を通り抜けていった。
　映した者を鏡の世界へ閉じ込めるトラップには、水鏡を作り出す魔法で合わせ鏡を作りだし、過負荷をかけることで突破した。炎を吐きだすガーゴイルはベルが氷の魔法で凍結させ、アイビーの呼び出した使い魔猫が敷きつめられた魔法陣によるセンサー網をひょいひょいと飛び越え、つつがなく罠を解除した。
　人の願望をかなえ、希望をもたらすものが魔法であるのだと、ふたりは信じている。けっして男爵のように自らの欲望を満たすための手段として用いるべきではない。それがゆえに彼女らは悪に抗い、正義を胸に戦うのだ。
「ここが宝物庫なのです」
「魔法のドアで入りましょう！」
　厳重な魔法錠もするりと通り抜け、侵入するとそこには、暗き輝きを放つこぶし大の結晶が台座へ浮かび、魔法の力を帯びてゆるやかに回転しているのが見えた。
「ありました、ノワール・クリスタル……あっ！」
「ここにもゴーレムが！」
　しかし、やすやすとそれを手に入れさせてはくれないようだ。おそるべきゴーレムはここにも配されて、侵入者を迎撃せんと今まさに起動するところだった。
「これは、戦わざるを得ませんね。ベル、お願いします！」
　ベルのステッキが青く光を放ち、魔法の障壁が周囲へ響く音を遮断し封じ込める。
「いきましょう、ベル！」
「おっけーなのです、アイビー！」
「「必殺☆マジカル☆シャイニーブラスターーーッ！！」」



　日曜の朝を騒がせる、クロサキ男爵の悪の魔法！
「ふはははは、みんな野菜になってしまえ～！」
「うわーっ、僕、ニンジンになっちゃった！」
「いやあああ、大根になんてなりたくない～！」
「カボチャにされて美味しく食べられちゃうなんて、やだー！」
　なんてひどい！　人間を野菜にしてしまう魔法によって、みんながつぎつぎと美味しくなっていくなかで、誰かがその名を呼びました。
「たすけてー、マジカル☆ガールズー！」
「お願い、来てーモモちゃん！」
「リリちゃーん！！」
　もちろん、悲痛な叫びを見過ごす彼女たちではありません。たちまちキラキラ、まばゆく輝く光がスパークして、
「そこまでなのです！」
「これ以上、みんなを傷つけさせません！」
「うぬうっ、出たなマジカル☆ガールズめ！」
　みんなの味方、スーパーヒロイン！　モモとリリ、キラッと参上☆　巻き起こる大歓声！
　そしてピンキー・クリスタルのモモは、昨日までの彼女とはちょっぴり違いました。
「力を貸して、ホワイト・クリスタル……！」
　浄化されたノワール・クリスタルは純白を帯びてきらめき、ピンキー・クリスタルの桃色と混ざり合って、モモを包みこむやさしくも力強い桜色があたりに広がり、満たしていきます。途端、モモの身体からあふれだす、無限の魔法パワー！
「この力があれば……！　リリ、決着をつけましょう！」
「おっけーなのです、モモ！　クロサキ男爵、覚悟するのですっ！」
「こしゃくな、返り討ちにしてくれるわ！　お前たちも野菜になるがいい、ふははははー！！」
　激しい嵐のように吹き荒れる邪悪な魔法の奔流……けれど、手を取り合えばリリへも巡りだす無限のパワー。そこにみんなの声援が加われば、魔法少女はもう無敵！
「リリ、心をひとつに！　必殺☆マジカル☆ミラクル☆リリカル～」
「プリティ☆ラブリィ☆デストロイー！」
「「スマーーーーーーッシュ！！」」
「ぐ、ぐわわわわーーーーーー！っ！」



　やっぱりお空の星となったクロサキ男爵。少しは懲りたでしょうけれど、残念ながらこのくらいで、悪は滅びません。すぐにまた力を取り戻し、ふたたび平和を乱しにやってくることでしょう。
　そんなちょっぴりアブナイこの世界、けれど大丈夫。みんなには魔法少女がついていますから。みんなの声に応えて、いつでもキラキラキラリン☆　と助けてくれることでしょう。
　さあ、心をひとつに！　声をそろえて、ふたりを呼んで！
　せ～のっ！

「「「たすけて、マジカル☆ガールズーーー！！」」」

「キラッと参上♪」