初恋デェト｜リアクション

初恋デェト

　綾辻綾花は、早川珪と共にショッピングモールへ向かっていた。今日は買い物デートをすると約束していた。
　ふわっと風が吹いたかと思うと、本のインクと紙の匂いが鼻をくすぐった。
「あれ、こんなところに古本屋があったか？」
　珪が首を傾げる。綾花も見たことがなかったが、学校の図書室と同じ匂いがした気がして。
「あの、ちょっと入ってみませんか」
　そういう気分になった。珪も同じらしく、二人揃って中へ。やはり、図書室の独特の匂いがする。
　興味深そうに本棚の上の方を見ている珪の後ろ姿に、綾花は目を細めた。
　そう、初恋。珪との出会い。
　出会いも本に囲まれていた気がする。
「綾辻さん」
　呼ばれて、歩み寄る。
「ほら、あの本。絶版になってる。前に話したことがあったよね」
「！　凄い、始めてみました」
「掘り出し物があるかもしれないな、この本屋」
「そうですね」
　読書好きとしてもちろんわくわくしていたが、どうしても珪の笑顔に目がいく。
（珪さんの笑顔は出会った頃からずっと変わらないですね。その笑顔で見つめられたらドキドキです。気付いてましたか？　照れてる笑顔も好きですよ）
　と、珪が手にしていた本を捲る手を止めて、こちらを見てきた。
「そういえば、僕が赴任してきて3年くらい、かな」
「あ、はい。３年ですね。急に、どうしたんですか」
　内心ドキドキした。
「ああ、いや。図書室にいるみたいな感じがしてね」
「私もです。私が１年生のころですよね。懐かしいです。あの……こうして珪さんとデートしてるなんて3年前は想像もつかなかったです」
　言ってしまってから、後悔した。顔が真っ赤になっていることだろう。
「３年も一緒にいたら、色々変わるさ」
　笑う珪、綾花はじっと顔を見つめる。
「……珪さんと出会えて良かったです」
「ああ」
　短い言葉だが、肯定してくれたことは明らかだった。
　綾花が好きになったのは珪が初めてだ。初恋は間違いなく珪だ。
（3年前に図書委員として出会って笑顔とか優しさとか知っていくうちに好きになってました）
　告白するまで初恋の人だって伝えられない。ここで言ってしまいそうになるが、ぐっと堪える。
「こうして珪さんと一緒にいられるのが幸せです」
（珪さんと過ごした時間は宝物ですし、これからも宝物が増えていくのが楽しみです）
　また手をつないで歩きだしたい。そう、思った。
「じゃあ、行こうか」
　自然と手を引かれた。本屋を出るまでの一瞬だったが、これから先もこんなふうに一緒に。
　そう、思った。

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