アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～｜リアクション

アホー！　～そしてカラスは闇夜に哂う～

▼ジェットコースター　２

「なんかカラスがうるさいなぁ」
　梟のぬいぐるみ・女川智火は首をぐるりと回して、ひょうひょうと呟いた。
「カラス集まってる所って、たいてい何か死んでるよね、ちょっと見に行ってみようかな」
　おー、さすが腐ってもふくろう、私でも飛べるんだね！　なんて、翼をはためかせながら、私もとうとう頭がおかしくなったのかな、なんてひとりごちる。
「まあいいけど」
　例えば、不思議な国へ行った少女と同じ目線で、世界を見る事がかなうなら。
　それはそれで研究者として、得るものがあるのかもしれない。

「いきなり変な場所に飛ばされたと思ったら、ののこくんがピンチで僕らは全員おもちゃにだってー！？
　……ってなリアクションをとったりしないほど、慣れちゃった非現実に涙を隠せないよ僕！」
　ヒーローフィギュアにその身を変えた、新井米太郎は精神的に、ちょっぴり強くなったのかもしれない。
　その腕に、こけしとなった霧切翠子。互いに想い合う両者、翠子を大事に抱えて、米太郎は先を急ぐ。
　しかし無情にもノンストップのジェットコースターが、行く手を阻む。
「こー君のろっこんをうまく使って、コースターを止められないかな？」
「……やってみるよ」
　米太郎が、翠子をしっかり抱え直す。

　＜似非ヒロイズム＞は米太郎が他者を助けたいと願う時のみ、重力を操る事を可能にする。
　翠子は米太郎を信じ、＜バジリカ＞をうっかり発動させないよう制御に集中する。彼女のバジリカは、範囲内に非日常現象の侵入を許さないから。

　ヒーローが僅かに速度を落としたコースターに飛び移るのを、眼下に認めつつも、不死鳥の十条寺達磨の表情は硬い。
「カラス達、戻って来やがったな」
　彼等が遠く離れて様子を窺っていただけの、カラスの一団を蹴散らしたタイミング。
　達磨の予測の通りもれいびカラスが先程の一団に居て、情報をクローネに伝達していたなら、業を煮やしてという事だろうか。
　そして囮はバレた、という事になる。

「凛ちゃん……うぅ……」
　桃原空音は連れ去られた、友人の身を案じた。
　ジェットコースターでは、相変わらずののこの身代わりである、うさぎの縫いぐるみ達が、はしゃいでいる。

「のーのちゃん。えへ、あそびましょ♪」
「あー、空飛ぶお馬さんだー！　かぁっこいい～！」
　ペガサスになった天馬ひびきは、コースターに並ぶと、気さくに声を掛ける。そうしてののこだけを、こっそり連れ出そうとしたのだが、どれもが等しくフレンドリーに手を振り返してくれるものだから、正直本物と偽者の区別がつかない。
「にゃはー……きゅあ☆ペガサス、ぴーんち……」
　激化する戦闘で、ののこが現実に気付いてしまうのでは？　という心配をよそに、うさぎ達は身を乗り出してお気楽に、ひびきに向かってアピールする。
　心から楽しむ様子には、うっかり和んでしまう。

　だが、そうこうしている間にも、黒い翼は徐々に空を覆い始めていた。

「おいでなすったか」
　怪盗を名乗る男・長靴を履いた猫、シグレ・ナイトウォーカーは白銀のサーベルを腰から、抜き放つ。
　高速で走るコースターのシートという不安定な足場の上で、シグレは抜群の運動能力を発揮していた。
　間合いを計り、カラス達が飽和攻撃を開始する。
　月の光を弾いてサーベルが閃き、黒い塊にドーナツ状の空間が生まれる。

「ええいっ！」
　周囲に巡らされた柵の上から、ふわふわの犬の縫いぐるみがコースターに向けて決死のダイブをする。
　タイミングには細心の注意を、けれどもどこまでも大胆に。シートの隙間に転がり込んで、ようやく細く長い息をつくのは綾辻綾花。
「ふぅー……怖かった……」
　シグレとは逆に、運動は苦手な綾花。胸を撫で下ろし、体勢を整える。

「That’s briliant」
　少女の勇気に口笛と賞賛を送るシグレに、思わず恥ずかしげに俯くが、すぐに顔を上げる。
　夜空に向かって唸りをあげ、綾花がカラスを威嚇する。大切な友人を、守りたいという一心が綾花を突き動かす。
「ののこちゃんは渡しません！　近づいたら、噛みますよ！」